動く影・・・夢にまで見た巨体が目の前に?

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Vol.38 ▶︎デカい角の雄のムースをこの目で必ず見る!

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夏の太陽が西に傾き始めたころ、グランドティトンの南東を流れるグロスベンター・リバーを目指しキャンピングカー走らせていた。車内は相変わらずうるさい。路面の凹凸に合わせて、ガタガタと音を立てる。掘っ立て小屋が、強風に煽られて、ギシギシ音を立てているような感じだ。走ることより、駐車して中で快適に過ごすことを目的に作られたモノなので致し方ない。ガタガタ音をバックミュージックに、まだ見ぬムースを思い浮かべ否が応でも期待が高まる。

ゆっくりと水が流れるグロスベンター・リバーの両岸には背丈ほどの植物が生い茂っている。いかにもムースが好みそうなところだ。川に沿った道を、のんびりと走りながら動くものを探す。行きかう車は殆どない。途中、一台の大型キャンピングカーが停まっていたが、とりあえずやり過ごし前に進んだ。 数キロも進むと川から少し離れてきた。狭い道を何度か切り返しをしてUターン。先ほどの大型キャンピングカーまで戻った。ムースを探しているのは間違いない。何か見たかと問うたところ、少し前に近くで親子ムースが草を食んでおり、あっちのほうに歩いて行った、と川の上流を指さした。少し高い木が茂っており、ここからは何も見えない。一目散に、しかし出来るだけ音をたてずに家内と二人で駆けた。

前方に茶色の物体が見える。前を歩く大きな姿、小さな姿がそれに続く。距離にして30メートルほどだろうか。親子のムースだ。「わ~」、家内が抑え気味の叫び声を上げる。喜びもつかの間、親子の姿は背丈の高い草に遮られた。 動く影は見えるのだが、姿をはっきり見ることはできない。根気よく待っていると突然、子供のムースが草陰から顔を出した。こちらを覗いているようだ。なんと愛らしい顔だろう。草を食んでは、頭を上げてこちらを見、また草を食む。数分後、愛らしい長い顔は大きな影を追って藪の奥に消えていった。 親子のムースを見て興奮する家内。それでもやはり、でかい角のオスのムースを見てみたい。このあたりにムースがいる事は分かった。あとは日暮れまで探すのみだ。

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子供のムースがこちらの様子を伺っているようだ

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しばらくして、親子一緒に藪の中に姿を消していった

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蚊の羽音に悩まされ、霧のような大群に襲われること半時間。対岸に茶色の塊を発見した。初めに見えたのはこぶのような背中だ。そして、大きな角。オスのムースだ。間違いない。ヘラのような形をしたムース特有の角がはっきりと見える。双眼鏡を覗く。立派な体格のオスのムースの姿がはっきりと見える。 突然、振り向いてこちらを見た。夢に見たムースは、なんだかマヌケな顔をしている。思わず笑みがこぼれる。再びこちらに顔を向けたムースとレンズ越しに目が会ったような気がした。隣には、まとわり着く蚊を気にもせず双眼鏡を覗く家内。 10分、そして20分。ムースの食欲は旺盛だ。何処へ行くでもなくただひたすら草を食んでいる。その間も蚊は容赦してくれない。今夜は二人でムースを見た感動の余韻に浸りながらムヒ(かゆみ止め)の奪い合いになりそうだ。

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突然、振り向いてこちらを見た大きな体の親。夢に見たムースは、なんだかマヌケな顔

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翌朝も早起きして、グロスベンター・リバーの畔で「柳の下の二匹目のどじょう」ならぬ、「水草の脇の四頭目のムース」を狙ったが、残念ながら姿を現すことはなかった。 余談になるが、英語でMooseの複数形はMoosesではなく、単数形と同じMooseである。それというのも、「ムース」の語源が嘗てアメリカ北部からカナダの広いエリアに住んでいたネイティブ・インディアンのアルゴンキアン族の言葉に由来するからだそうだ。

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(11/16/2022)


 

Nick D (ニックディー)

コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。

http://nick-d.blog.jp

 


 

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