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Vol.39 ▶︎あっちこっちで立ち往生。まあ、のんびり行くか
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前方にはテールランプの長い列が続いている。キャンピングカーのブレーキをゆっくりと踏み減速させる。渋滞の前方は見えない。道路脇にクマでもいるのだろうか。周りの皆もそわそわしているはずだ。停まった車の窓から顔を出し前方を見る。何も見えない。暫くは、動き出さないだろう。今思い返せば、この渋滞が、その後イエローストーンで経験する様々な渋滞のプロローグだった。
旅の6日目。性懲りもなく、また早起きをしてムース探をした。残念ながら今回は空振りに終わったが、前日スリーラン・ホームランを打っているのでの心残りはない。朝食後、グランドティトンを発ち北上、イエローストーンへと向かった。 南エントランスから入園し、イエローストーン・レイク脇にあるウェストサムに立ち寄った。湖のほとりに色とりどりのガイザーが点在している。世にも珍しい水中間欠泉、フィッシング・コーンもそこにあった。間欠泉だけあって時折、高圧の蒸気が噴出する。その昔、釣り人がそこで魚を茹でて食べたという、真実のほどは分からない話がある。私が見たときには、数匹の小魚が噴出孔の中でのんきに泳いでいた。茹でガエルならぬ、茹で魚になる危機が迫っていることは知るすべもない。 ウェストサムを後にし、フィッシングビレッジに向かう途中で渋滞にハマった。視界の先には、どこまでも続くテールランプ。しばらく昼食にはありつけそうもない。急ぐ旅ではないので、渋滞は気にならない筈だが、空腹時は例外だ。 やがて車がゆっくりと前に進み始めた。路肩に停車している車や、パークレンジャーの姿が見える。やはり熊だろうか?妻が何か見たようだ。発した言葉は、「な~んだ、エルクか」。立派な角をしたエルクが数頭、道脇で草を食んでいる。もう一頭はのんびりと道を横切っている。 これまでグランドティトンで大きなエルクを何頭も見てきただけに、つい、「な~んだ」という言葉が出たようだ。野生動物の宝庫であるイエローストーン。ビッグ・ファイブといえば、オオカミ、ムース、クマ、バイソン、そしてエルク。名誉あるビッグ・ファイブの一角を占めるエルクに向かって「な~んだ」は失礼だ。二人して顔を見合わせて大笑いした。 イエローストーンは1872年に世界で始めての国立公園として誕生した。アメリカで最も頻繁に大型動物を見られる場所としても知られている。古くは絶滅の危機にあったアメリカン・バッファロー(今ではバイソンと呼ばれるのが一般的)の保護のため、。更には、姿を消してしまった狼をカナダから移住させ、この地で新たな繁殖を試み、大きな成功を収めるなど、イエローストーンの歴史、即ち野生動物保護の歴史といっても過言ではない。
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駐車場脇で草をはむバイソン。イエローストーン・ヘイデンバレー付近にて。
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エルク渋滞から解放され、向かう先は公園の中心部にあるキャニオン・ビレッジだ。そこにあるキャンプグラウンドが、これから三日間のベースキャンプとなる。明日からそこを起点に、ガイザーカントリーやマンモスカントリーを回る。先ずは、ジェネラル・ストアーで食料の買い出しだ。 キャニオン・ビレッジの中心部で珍しいものを見た。その名は、T.E.D.D.Y. The Electric Driverless Demonstration in Yellowstoneの略、無人自動車のショーケースだ。ビレッジ内の宿泊施設、ビジターセンター、レストラン間などの近距離移動に利用されている自動運転のシャトルだ。ぜひ乗ってみたいと思っていたところ、充電中だった2台のうち一台が動き出した。ジェネラル・ストアー脇の停留所に数名の人がいたので、並んで待っていると、四角い箱がノロノロと近づいて来た。すぐ前に停まってドアが開く。「な~んだ」、中には運転手がいるではないか。乗車は止めにした。
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充電中のT.E.D.D.Y.
.充電中のT.E.D.D.Y.
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(11/21/2022)
Nick D (ニックディー)
コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。