地表のミミズ「Leona Divide 100K」を走る

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Vol.51 ▶︎代わり映えのしない景色がこんなにもキツイとは!

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その日は、朝早くから緑色の風が吹いていた。空は混ざりっ気のない青一色。どこまでも続く丘には、膝ほどの背丈の草花が生い茂る。その斜面を蛇行する一筋のトレイル。線をなぞるように、一歩一歩と足を前に進める私。その心は空の青にも負けないほどのブルーに染まっていた。それも、かなり濃い、泣きたくなるような、極めて惨めなブルーだ。 Leona Divide 100km。自宅から30分程度のLake Hughesで催された地元のトレイルレース。朝6時から夜8時半まで走り続け、14時間30分で何とか完走は果たしたものの、ゴールに至るまでの道のりは、時に悲しげなバイオリンの音色が似合うような悲劇的、かつ喜劇的なものだった。

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距離100km、累積標高1万フィート(3,000m強)とそこそこ高低差はあるものの、経験したことがない程きついコースではない。当日の気温も例年ほど高くなく、快適に走れる環境は整っていた。ところが、現実はと言うと、気持ちよく走れたのはスタート直後の1~2時間程度。太陽が東の空を中ほどまで昇った頃には、状況は一転していた。 その気持ちを言葉にすると、土の中から自らの意思とは無関係に急に掘り出され、地表でもがき苦しむミミズ、と言えば多少なりとも理解して貰えるだろうか。序盤で無脊椎動物と化した私は、その後長時間に渡ってニョロニョロと、とても辛い時を過ごす羽目となった。お陰で今ではミミズの気持ちが少し分かる様になった気がする。これからは庭の手入れをする時には、ミミズにもう少し優しく接してあげよう。ミミズだって生きているんだ。 スタート地点から3時間ほど。

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「Leona Divide」はウェスタンステイツ・エンデュランスランという、世界で最も権威のある100マイルレースのエントリー資格を得るための大会に指定されている

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いつもなら走りながら、「あ~気持ちいいなぁ~」と、つい声に出してしまうようなシングルトラックのトレイル。延々と遥か彼方まで続く緑の丘々。雲一つない宇宙色の空。本来なら極上の喜びを与えてくれる筈のそれら。今回、網膜に投影されたのは、「どこまで走っても代り映えのしない退屈な景色」だった。 時折、大きなバックパックを背負ったハイカー達に遭う。トレイルの幅は1メートルにも満たない。すれ違う時には、互いに声を掛け合う。今回のルートの大部分は、パシフィック・クレスト・トレイル、通称PCTと呼ばれる、メキシコ国境からカナダ国境までを結ぶ全長4,270㎞のトレイルと重なっている。大きな荷物を背負って北へと向う人達の多くは、何か月も掛けてカナダ国境を目指すスルー・ハイカー達だ。メキシコ国境を目指して南下するハイカーがこの辺りを通るのは、まだ数か月先のことだろう。単独で北を目指すハイカーも思いのほか多い。皆、一様に何かを求めてこの地に来たのだろう。 傍らには、求めるものが何なのかも分からず、「もう走りたくない、早く家に帰りたい」と愚痴るランナー。山道でUberの迎えがある筈も無く、いくら文句を言ってもても選択肢は限られている。雪まじりの冷たい雨に一日中打たれたり、砂漠で灼熱の太陽に晒され続けたり、「これはヤバい」という経験をしたことは幾度となくある。然し、目の前にあるのは、極寒の山岳地帯でもなければ、猛暑のモハビ砂漠でもない。疲労が極限に達している訳でもない。只々、気持ちが入らないと言うか、情熱が欠如していると言うか、兎にも角にもスキッとしない。こんなことは初めてだ。

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(2/21/2023)


 

Nick D (ニックディー)

コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。

http://nick-d.blog.jp

 


 

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