気分はすっかりトライアスリート。次なるはチャレンジは?

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Vol.30 ▶︎ 600kmの彼方まで来たが・・・申し込みどうしよう

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イチゴ畑でのデビュー戦から、レースの度に毎回スイムやバイクで素人ならではの苦労。ボロボロになりながらも徐々に距離を延ばし、ワイルドフラワーで裸の集団に応援されながらロングコースを完走。何とかトライアスリートの仲間入りを果たした。

その後、炎天下のハーフアイアンマンも完走し、すっかり自称トライアスリート。ここまで来たら、アイアンマンを目指すしかないと思い立ち、レースを探し始めた。いつもの事ながら、海は懲り懲りなので湖でのレース。願わくば起伏の少ないバイクコース。暑い時期は避けたい。更に車で行かれるところ等々、贅沢を並べ上げながら探して漸く見つけたのが「アイアンマン・アリゾナ」。アリゾナ州フェニックス郊外のテンピでの開催だ。コースは、テンピの町の中心部にある細長い人口湖でのスイム3.8km(2.4マイル)。次いでサボテンが群生する緩やかな丘をバイクで3周して180km(112マイル)。最後に湖の周りを2周走って42km(26.2マイル)。米国では、全てのマイル数を合計してアイアンマン140.6と呼ばれる。因みにハーフアイアンマンは「ハーフ」という言葉を使わずに、アイアンマン70.3の名称で知られている。

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いざ、意を決して申し込みと思いきや、今年のレースは既に売り切れ。よくよく調べてみると、毎年申し込み受付から数分で売り切れとなる超人気のレースなのだ。波の無い湖でのスイム、平坦なバイクコース、沿道からの応援多数と好条件が揃えば、人気があるのも当然。私のようにアイアンマン初チャレンジのアスリートも多いようだ。折角見つけたレースが既に完売。更に毎年数分で完売では、来年もどうなるか分からない。途方に暮れながらも調べると、なんと今年のレースでボランティアをすると、翌年の参加権が優先的に得られることが分かった。
という事で、事前にボランティアの申し込みをし、大会前日の早朝に一路600kmの彼方にあるテンピへ。到着後、直ちに仕事内容や持ち場などの説明を受けて、ボランティア用のティーシャツを受け取り準備完了。翌日の仕事はというと、バイクコース上で曲がり角の案内役。猛スピードで疾走するバイクの選手たちに徐行を促し、曲がる方向を示す仕事だ。

午後は時間が空いたので、翌年に備えてバイクコースを試走してみる事にした。60㎞のルート、勾配は緩やかなはずだが思ったよりきつい。これを3周するのは楽ではない。がしかし本番までにはまだ一年ある。

バイクの後は、湖へ下見に。翌日のレースに備えて既にターンの目印となる黄色と赤のブイが幾つも浮いている。スイムスタート地点付近から進行方向に沿って歩くが、行けども行けども折り返しのブイは見当たらない。20分以上歩いて、漸く折り返し地点に到着する。これで未だ3.8kmの半分に満たない。なんと長いことだろう。翌年の申し込み資格を得るために600km運転してここまで来たものの、過去のスイムでの惨劇も記憶に新しく、実際の距離を見て臆病風が吹き始める。一度、頭をよぎった不安は、そう簡単に払拭できるものではない。夕刻になっても頭の中をモヤモヤが覆い、申し込みの取りやめを真剣に考え始める。

更に翌日、レース当日。見たくない現実を目の当たりに・・・バイクコースでのボランティアは2交代制で私の順番は後半。よって、スイムを観戦する時間は充分にある。レース開始後、前日歩いた湖のほとりを歩きながら、泳ぐ選手たちに声援を贈る。力強く猛スピードで泳ぐエリート集団の後には、マイペースで泳ぐアスリートたちがバラけて続く。次いでライフガードのカヤックに捕まって息を整えながら、蹴られたり、溺れたりせずに、制限時間内に無事に泳ぎ切る事を目指すアスリートたち。私は、どう見てもこのグループの一員だ。

その中の一人、ウェットスーツの上からでも肩や腕の筋肉の盛り上がりがはっきり分かる、ガッチリした体躯の選手。未だ1kmにも達していないのに、どう見ても様子が変だ。と思いきや、コースからはずれ湖の縁につかまっては休み、少し泳いでは、また縁につかまってを繰り返している。暫くすると、レース続行を諦めてDNF(Did Not Finish)。足が吊った様子も無いのでおそらく緊張で心拍数があがり、パニック状態に陥ったのだろう。あれだけ体を鍛えたレスラーのような屈強な選手が・・・同情とともに、スイムへの不安が更に高まる。その後も数名が途中でギブアップするのを目の当たりにした。皆、ここに至るまで様々なものを犠牲してトレーニングに励んできたはず。一年後の自分と重ね合わせて、不安は更に募るばかり。明日の申し込みどうしよう・・・

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(9/21/2022)


 

Nick D (ニックディー)

コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。

http://nick-d.blog.jp

 


 

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