Vol. 20 ホイットニー山 カリフォルニア州
頭痛がひどくなっている。4000メートルを超えているのは間違いないだろう。荒々しい岩肌と散乱する瓦礫。不安定な足元。油断すると足を挫き、下りで地獄を見る事になる。足を覆っているのは、トレッキング用のブーツではなく、軽量のトレイルラン用のシューズだ。当然、くるぶしのプロテクションはない。走って下山するつもりで敢えて、このシューズを選んだ。一瞬、後悔が頭をよぎるが、斜面を風を切って疾走する喜びには代えられない。
山頂では10名ほどのハイカーが思い思いの時間を過ごしている。寝転がって休む者、写真を取る者。すぐ横にいる30歳くらいのハイカーは、先ほどから何人もの友人に電話をしている。携帯の電波があること自体が驚きだが、この男の行動もなかな面白い。聞き耳を立てていた訳ではないが、大声で、「おれ、今アメリカ本土で一番高い山の頂上から電話してるんだぜー。デナリ山じゃないよ、ホイットニー山。それじゃまたねー」と言って、次から次へと電話を掛けている。嬉しい気持ちはよくわかる。数分前までは、頭の痛みに耐えながら、重い足を引き摺り歩いていた。山頂の小屋が視界に入った瞬間に感じたのは、もう登らなくてもいいという安堵感だ。今この瞬間、アメリカ本土で一番高い所にいるという事実は、何とも言えない優越感を与えてくれる。登頂までに要した時間は約7.5時間。下りのルートを頭に思い描く。瓦礫部分は歩く。滑落の危険があるところは慎重に。スイッチバックは落石禁物で無理はせず。それ以外の緩い傾斜は走る。4.5時間~5時間と言うところだろうか?
途中の湖や川で水補給をしながら、高山植物が地面を覆うエリアを、時に歩き、時に駆けて降りてきた。視界のすぐ先には、針葉樹が生い茂る森林限界下の林が広がる。
地球を走る
アウトドア・アドベンチャーのすすめ
Nick D (ニックディー)
コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈けまわる毎日。
「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。