アメリカの富豪とイギリス王室 未成年者性的虐待事件の真実 

 

アメリカ101 第116回

 

イギリス王室の“問題児”アンドルー王子(61)が、アメリカの富豪ジェフリー・エプスティーンの未成年者性的虐待事件での新たな展開で、16歳の女性と数回にわたり性的関係を持ったとの疑惑が再び脚光を浴びており、英米両国でビッグ・ニュースとなっています。 

 同王子はエリザベス女王の第三子で次男、王位継承順位は9位というヨーク侯爵の爵位を有する王室の主要メンバーです。エプスティーンのパートナー/共謀者で、両者は学生時代から面識があり、英米社交界の花形でもあったギレーヌ・マクスウェル(60)の仲介で、当時17歳だった未成年者と数回にわたり性的関係を持ったとして、この女性バージニア・ロバート・ジュフレイ(38)の損害賠償請求訴訟に直面しています。2019年11月に放映されたイギリスの公共放送BBCテレビとのインタビューで、同王子は、そのような関係にあったことはないし、会ったこともないと一切否定しています。 

 またマクスウェルのロンドンの邸宅で撮影されたという“証拠写真”についても、撮影された記憶もなく、偽造したものである可能性も指摘しました。この写真は、王子がジュフレイとみられる若い女性の腰を抱きかかえるのを、マクスウェルが数歩離れたとこらから見ているという構図です(ネットで「アンドルー王子、写真」と入力・検索すると、この写真を見ることができます)。 

 これでは「She said, He said」(水掛け論)ですが、真実は「マクスウェルのみぞ知る」ということでしょう。そのマクスウェルは、社交界での交友関係で知り合ったエプスティーンの交際相手であり、その後も、エプスティーンの欲望を満たすために、多数の未成年の女性を“リクルート”する役割を演じていたとして2020年7月に逮捕、起訴となりました。昨年末にかけてのニューヨークの連邦地裁での陪審裁判では、弁護側は、虐待を受けたとする証言には信頼性がなく、無罪を主張しましたが、12月29日に未成年者性的虐待容疑や人身取引など5つの罪状で有罪評決が下り、量刑言い渡しを待つことになりました。 

 この裁判は、事件の主犯格エプスティーンが2019年7月に勾留中に自殺したため、事件の全面解明の最初のケースです。公判では性的虐待を受けたとする女性4人が証言したものの、アンドルー王子を告訴しているジュフレイは出廷せずで、同王子の関与は不明のままです。 

 量刑言い渡しの期日は不明ですが、有罪評決のあった5つの罪状のうち最高刑の未成年人身取引が禁錮40年であり、合計すると最高で禁錮65年となる計算で、このままでは事実上の終身刑となる見通しです。マクスウェル側は控訴するとしており、さらに裁判が長引くとみられます。だがニューヨーク・デーリー・ニュース紙によると、マクスウェルが「すべてを白状」(spill the beans)すれば、量刑に裁量の余地があるため、検察側が短い刑期に同意する可能性があるとの法曹専門家の見方を紹介しており、内容次第では、アンドルー王子とジュフレイの関係だけでなく、エプスティーンのプライベートジェット機に同乗したとされるビル・クリントン、ドナルド・トランプといった大統領経験者や、その他の超有名人の具体的な行動も明らかになるかもしれません。 

 アンドルー王子側は、ジュフレイがアメリカとオーストラリアの二重国籍を有し、ほとんどアメリカに滞在したことがないとして、アメリカの法廷での提訴自体が法的に無効だとの議論を打ち出していますが、1月1日になって連邦地裁判事が裁判開始のゴーサインを出したと伝えられ、一段と苦境に立たされています。 

 

 

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(1/7/2021)

 

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