妻を襲った「ハンガーノック」。さて、どう乗り切るか?

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Vol.22 ▶︎ザイオン・ナローズ。バージンリバーの流れの中

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ウェストリム・トレイルは全長21㎞。ザイオン国立公園の北側に位置するラバポイントまで続いている。その北西には、訪れる人も稀なコロブキャニオンが、ひっそりと佇んでいる。鎖場の人混みを後にして、そのままウェストリムトレイルを北上した。 一度、エンジェルズ・ランディングへのルートを外れると、ハイカーの姿はぱったりと途絶えた。前方に聳える名も知らない頂きに向かう。静まり返ったトレイルに、二人の足音だけが響く。照り付ける日差しが心地よい。静寂に包まれた聖なる丘ザイオン。そこに流れる時間は極めてゆったりとしている。

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ナローズへ向かうトレイル脇

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深い所では、水は腰まで達している。水温は思ったより低い。数分前まで麻痺していた指の感覚がようやく戻って来た。太陽は西に傾き始め、狭渓谷内は日陰の部分が多くなってきた。気温は30度を超えているはずだが、足元を流れる河の水に体温を奪われ肌寒い。 転ばぬようにトレッキングポールでバランスを取りながら、バージンリバーの流れに逆らって歩く。両側には岸壁が高くそびえ立っている。周囲に人の姿はあるが、スタート地点とは比較にならないほど減っている。 30分ほど歩いただろうか。冷たい水に浸かりながらも家内は、先程とは別人のように、上機嫌で川歩きを楽しんでいる。

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ここで一時間ほど時間を遡ってみよう。 エンジェルズ・ランディング登頂を諦め、ウェストリムの静けさを暫し楽しんだ後、再びバイクに飛び乗り、シーニックドライブの最終地点である、テンプル・オブ・シナワバへ向かった。トレイルヘッドにバイクを残し、1.6㎞先のナローズの出発地点までのトレイル。家内がすっかり無口になった。 大丈夫かと問うと、「もう疲れちゃった~」と目に見えて元気がない(家内との会話はスペイン語なので、実際には “Ya me cansé ” という感じ)。

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家内が小休止している間、少し先の見晴らしのよい峰までひとっ走り

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過去に何度も経験しているお馴染み光景。疲労と言うよりはエネルギー切れだ。朝食後、エナジーバーとレーズンしか口にしていない。家内は、エネルギー不足に陥ると、ユーモラスに踊っていた操り人形が、突然、糸を切られ床に崩れ落ちるかのごとく動けなくなる。所謂ハンガーノックと言われる現象であるが、彼女の場合はかなり極端だ。私はと言うと、これまでのトレーニングで、体内に蓄積された脂肪分を効率的にエネルギーに変える術を身に着けている。因って、一般の人と比べると少ないカロリー摂取での長時間行動は得意な方だ。今日もこれまでレーズンを数粒口にしただけだ。 トボトボと歩く家内を励まし、ナローズの出発地点まで何とか辿り着いた。持参した川歩き用のシューズに履き替えながら、再びエナジーバーとレーズンを半ば無理やり食べさせ、祈るような気持ちで暫し待った。せっかくここまで来て、ナローズを楽しまずに帰るわけにはいかない・・・。

※本文はパンデミック規制下での出来事が含まれ、現在は状況が異なる場合があります。

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(7/27/2022)


 

Nick D (ニックディー)

コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。

http://nick-d.blog.jp

 


 

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