3月27日(日)アカデミー賞授賞式 作品賞最有力候補「ドライブ・マイ・カー」

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アメリカ101 第125回

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今回は、今月27日(日)にハリウッドのドルビー劇場で開かれる第94回アカデミー賞授賞式をめぐるアメリカ映画界が直面する“地殻変動”がテーマです。 昨年は、観客なしでドルビー劇場とダウンタウンのユニオンステーションを結ぶオンライン形式での開催という新型コロナウイルス禍での異例なものでしたが、今年は例年通り3400人収容の大劇場で、4年ぶりに司会者、それも3人も起用し、目玉の作品賞には限度いっぱいの10作品がリストアップとなり、「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)が4部門でノミネートされるなど、「世界のエンタメ首都」(Entertainment Capital of the World)であるロサンゼルスに相応しい華やかな一大イベントとなる見通しです。しかし肝心のアメリカの映画界は、パンデミックの影響もあって映画館に足を運ぶ観客の減少や大ヒット作の枯渇といったさまざま課題の直面しており、「映画の祭典」と喜んではいられない厳しい環境での開催となります。

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最近のアメリカ映画界は、まさに「惨状」と形容しても誇張ではありません。それは「大人向けの映画」の不振が象徴しています。例えば、昨年末のホリデーシーズンを狙って公開となったスティーブン・スピルバーグ監督による「ウエスト・サイド・ストーリー」の公開当初の週末の興収は予想された最低1200万ドル/最高3700万ドルを大幅に下回る1060万ドルにとどまりました。1961年公開の「ウエスト・サイド物語」(ロバート・ワイズ監督)のリメークで、これを上回る出来栄えとの評価もあったのですが、惨めなbomb(興行的な大失敗)でした。またヒット作常連スター、ウィル・スミスがアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた出演作品「ドリームプラン」(原題King Richard)も570万ドルと予想の半分以下という惨敗でした。女子プロ・テニス界を君臨したビーナス/セリーナ・ウイリアム姉妹のコーチだった父親役を好演したという話題性にも富んだ作品でしたが、スミス出演作としては最悪の興収とのこと。

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パンデミックで映画館から観客の足が遠のいたためとの見方もありますが、一方では、公開当初の興収が史上2位の2億6000万ドルというメガヒットとなったのは「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」(Spider-Man:No Way Home)で、当初興収は2憶6000万ドルでした。マーベル・コミックのスーパーヒーロー第3作で、昨年は「シャン・チー/テン・リングスの伝説」(Shang-Chi and the Legend of the ten Rings)も記録的なヒットを放っています。そして昨年の興収トップ30のうち、大部分は若者向けの映画で、ランクインした大人向けは「ハウス・オブ・グッチ」(House of Gucci)だけ。映画館でのヒット作は若者向けのスーパーヒーローだらけというのが実情です。

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35歳以上の大人向けの劇映画の興行成績不振は、もはや映画そのもの良し悪しではなく、①入場料や館内売店の値上がり ②シネコンがあるショッピングモールの老朽化 ③ストリーミング配信での映画鑑賞シフト、といった外部要因が影響しているとの見方が多いようです。

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さて肝心の今年のアカデミー賞ですが、日本人に最も関心のある「ドライブ・・・」は作品、監督、脚色、国際長編映画の4部門でノミネートされており、映画評論家などの玄人筋の見立てでは、ダントツの作品賞最有力候補です。だが1万人のメンバーによる“人気投票”という映画芸術科学アカデミーの性格から、国際長編映画部門での受賞プラス、残る3部門のひとつの受賞が実現すれば上出来ということでしょうか。しかし、結果如何にかかわらず、「ひととひとのつながりの素晴らしさ」(beauty of human connection)(ロサンゼルス・タイムズ紙映画評)を描いた必見の傑作なのは間違いありません。現在ロサンゼルス一帯のいくつかの“名画座”で上映中ですが、動画配信サービスHBO Maxでも視聴可能です。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(3/8/2021)

 

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