ニットータイヤUSA  2025年タイヤ業界殿堂入り 日本人2人目の快挙

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水谷友重
Tomoshige Mizutani 


Nitto Tire U.S.A. Inc.
名誉会長 常勤顧問

2025年11月3日、ニットータイヤUSAの常勤顧問であり名誉会長である水谷友重氏(以下:水谷氏)が、米国タイヤ業界における最高の栄誉のひとつであるタイヤ業界の殿堂入りを果たした。(タイヤ業界協会【Tire Industry Association(TIA)】主催)。TIAは、1921年に設立された100年以上続いている権威ある協会で、タイヤ殿堂は1985年から始まり、40周年を迎えたところだ。
水谷氏の歩みは、単なる会社を伸ばした経営者の物語ではなく、タイヤ産業そのものの価値観やビジネスモデルを変えたパイオニアの物語といえるだろう。
「実用」から「情熱/文化/ライフスタイル」へ。
その転換は、彼が自動車愛好家のためにタイヤを売るという信念を貫いたからこそ到達できたことである。水谷氏の信念は、タイヤが単なる実用品・消耗品ではなく、「車の個性」「楽しみ」の一部になる新しい文化をつくった。それは、タイヤ業界全体の価値観に影響を与えることであった。この度、殿堂入りを果たした水谷氏にインタビューの機会を得ることができた。

今年7月にイチローさんが、日本人として初めてアメリカ野球殿堂入りを果たされました。その同じ年にタイヤ殿堂入りを受けて、まず最初に心に浮かんだ思いはどのようなものでしたか?

首都ワシントン近郊にあるTIA(TireIndustry Association)は、1921年に設立された100年以上続いている権威ある協会です。タイヤ殿堂は、1985年から始まり今年で40周年を迎えました。
これまでの受賞者は、目を見張る実績を上げ、業界の誰もが尊敬するスーパー・ヒーローな方々ばかりです。過去日本人では、ブリヂストン創業者の石橋正二郎氏だけです。その歴史ある賞を今回頂き、大変な名誉で本当に嬉しい限りです。殿堂入りへ評価頂いたポイントは、

❶ Innovation – Luxury SUV や大型ピックアップ・トラックに、Luxury Segment を先駆けて見出した
❷ Inclusiveness – 多くの女性を経営幹部して活用する
❸ Good Citizenship 大学・大学院での講演や日系人社会への還元活動

の三点です。現在国の分断が話題の中、DC 近郊で開催された選定委員会で、数多くの候補者の中から外国人である私を、殿堂入りへの初めての推薦に基づき、そのまま直ぐ選んで頂いた事に、アメリカのフェアさ、寛容さ、懐の深さに感銘しました。

タイヤ業界でのキャリアの中で「これがターニングポイントだった」と思う瞬間はありましたか。

「出会い」で、まさに会社を180度ターンしました。

会社精算の危機でもがき苦しんでいる中で、お会いした Wheel 販売会社社長 故 Andy 安藤氏と日本の Off Road 界の先駆者市来裕昌氏から、直ぐ近くに眠っているチャンスを親身に教えて頂き変わりました。知り合った翌日に、Andy さんは、90年代初頭、日本車のSport-Compact の大ブームが起こりつつある現場へ私を連れて自ら案内して下さいました。市来氏からは、「若者は、旧世代とは違うものを探している。商品力とマーケティングがハマれば、無名だからこそ逆に大いにチャンスがある。」と背中を押して頂き、お仕事でお忙しいところを連日でも消費者のマインドや車の構造について温かく教えて頂きました。先ずお2人には、幾ら感謝しても足りません。

ニットータイヤブランドをここまで成長させるうえで、最も大切にしてきた哲学や姿勢は何でしょうか。

一般的にタイヤは、「電気・ガス代のように請求書を払わないと生活出来ないから仕方なく払う」と言う後向きな気持ちで買う Negative Purchase 商品です。我々は、宝飾やブランド品のように「欲しいから買う」 Positive Purchase のセグメントを追い求めて参りました。

我々はお客様を消費者では無く、敢えて「ファンの方々」と社内で呼んでいます。車好きのファンの方々のお気持ちを徹底的に理解し、「心に刺さる」モノ作りを追求しています。

アメリカ市場で成功するために、特に意識してきたことはありますか。(文化理解、顧客との向き合い方、マーケティングなど)

「現場」と「徹底したデータ分析」です。市場をとことん論理的に分析し、見える化や数値化し、戦略を立案しました。先ず車の州ごと、モデルごとの詳細な販売データなどをデータ・バンクから購入したり、競合しない関連業界(Wheelや Tuning, Lift-up Products)と信頼関係を構築して市場動向の情報交換を頻繁に持って、トレンドや特性を教えて貰いました。

そして、是非とも欲しいけど、どこにも無いデータは自ら動きました。例えばファンの方々の気持ちを草の根で調べ数値化・見える化する ー Enthusiasts が集う人気イベント(Show や Race)の駐車場の車全体の車種とタイヤを人海戦術で一日中調査して、人気の品番に競合他社のシェアなどを労を惜しまずデータを取りました。駐車場でシェアの高い Wheel のブランドがわかれば、その取扱い小売店こそ、その地域で人気店だとわかりますから、そこに直ぐに売込みをかけて行くなど。生きたデータは、幾らでも活用法があり文字通り血となり肉となりました。また今では思い出となりましたが、「駐車場で車を物色している怪しい奴らがいる。窃盗団に違い無い」と警察に通報され、危うく社員が拘束されそうになったエピソードもあります。市場・現場を実際に飛び回って集めた声と、各データ機関から収集したデータを画面でかけ合わせて分析して独自に理論を構築して行きました。このやり方で、未だ誰にも見えていない眠っている市場を的確に予測出来たと思います。

これら欲しいデータを自らとって多角的に分析するアプローチは、大学でのゼミの恩師天野先生から学んだ計量経済学の教えのおかげに尽きます。

■ニットータイヤUSA社員と水谷氏の家族も授賞式に参加した。

技術革新が進む現在、タイヤが今後どう進化していくと考えますか。また顧客は未来にどんなタイヤを求めているとお考えですか。

タイヤはあくまで自動車の一部なので、先ず何より自動車の未来像を把握する事が不可欠です。

全くの私見ですが、思い切って私の考える自動車市場の未来図を申し上げます。切り口として、超富裕層・一般層、都市と田舎(Metro vs. Rural)、Upper States とサンベルト、そして 自動運転とEVです。

先ず、超富裕層には、ドローン技術から生まれる空飛ぶ車の実用化が近いと思います。FAA(連邦航空局)により法整備され、安全性が実証されれば実用化は間近です。恐らくパイロット不要な自動飛行が主流となると思います。超富裕層には、安全性と利便性が肝要で、減価償却に関する税法も変更され価格は全く気にならないでしよう。

次に、Sun BeltのMetroでは、EVをベースとする自動運転車が急速に普及すると思います。今や新車の平均価格が $5万を超え、家計の負担は大変です。一方で、Waymo が全米で急速に普及しています。規模の経済でより価格が手頃になり台数が一気に増えれば、自家用保有車やリース、レンタカーから Waymo や Robotaxi を必要に応じ利用する流れが加速すると思います。やがていつの日か、車を運転する事は、現在の乗馬のような特殊なスキルとなる未来が来ると想像します。ただ、Upper States の寒い冬には、暖房で電力消費が増えEVの航続距離が短くなり、Upper States Rural は、このトレンドにはなかなかのらないと思います。

同様に自動車市場も、空飛ぶ車、自動運転EVに従来のレシプロ車*と、一気に各市場が各々の最適解を求めて変化を遂げる ー 分断化の時代をもう直ぐ迎えると思います。来たる新しい時代に合わせて、「ファンの心を捉える」DNAを大切にしながら、自由な発想で次代の商品に関して議論を始めています。

*レシプロ車:シリンダー内でピストンが往復運動し、その力を回転運動に変換して動力を得るエンジンを搭載したガソリン・ディーゼル車のこと

長年の挑戦のなかで、最も苦しかった経験と、それをどう乗り越えたか、教えていただけますか。

アメリカ赴任時は、本当に苦しかったです。同期からは、「西海岸に駐在なんて羨ましいなぁ」と言われましたが、着任した会社は文字通り火の車でした。毎日遅くまで残業、感謝祭も出社して仕事をこなす毎日。しかし、もっと苦しいのは、働いても働いても全く希望が見えなかった事です。人間は、何か光があれば心から頑張れますが、希望が無い日々は心身共に本当に辛いと思います。「一体なぜここにいるんだろう。こん苦しい毎日に何の意味があるんだろうか?」などなどが頻繁に頭をよぎって来ました。

そんな苦しかった時代に、Andy 安藤氏と市来裕昌氏と偶然お会い出来ました。辛くとも投げ出さずに一生懸命頑張っていたので、「神様からの贈り物 – 天祐」が届いたと心から感謝しています。ただ付け加えると、「幸運の神は、前髪しか無い」と。私は、安藤氏、市来氏の一瞬の出会いを掴んで決して手離しませんでした。

■殿堂入りのトロフィー。

この地で頑張る在米日本人に向けて、最も伝えたいアドバイスは何ですか。

チャンスの国アメリカでは、多くの人々がアメリカン・ドリームを掴もうと努力しています。一生懸命に努力するのは、当たり前。そこで、抜け出し成功して行くには、「諦めずやり抜く覚悟」「スピード」だと思います。

私の場合は、市場を走り回りそこで得たヒントを短期間で集中的に調べ抜き、競合者が参入する前に早く動く「スピード」を何より心掛けました。まさに、「早い者勝ち」です。

そして、もし仮に何かで成功し、ステージが上がったら、中学校・高校のスポーツで市の大会で勝てば次は県大会、そして更に全国大会が待っているように、成功すればより実力を上げるように倍の努力する覚悟を持つ事が肝要です。成功の代償として、競争相手のレベルが上がって来るので、油断すればあっと言う間に押し返され後戻りです。

最後に、移民国家アメリカには、「コミュニティ」という概念があります。これまで歴史で培われたコミュニティの一員として、自分が属するコミュニティ(業界、日系人、地域社会など)への社会から授かった利益の還元と貢献は決して疎かに出来ません。

アドバイスとして、多くなりますが、「諦めずやり抜く覚悟」「スピード」「成功すればするほど、逆に競争相手のレベルが上がって行く事を戒め常に Brush up を心掛ける」「コミュニティへの還元」です。

◆ニットータイヤ
ニットータイヤは、レース、オフロード、ストリートなど、あらゆる用
途に対応する高性能タイヤを開発している。日本と米国にある最先端の製造・試験施設を活用
し、ニットータイヤは最も要求の厳しい自動車愛好家のために、革新的で高品質な高性能タイ
ヤを提供している。 
水谷友重氏特別連載『やるか、やらないか。「やるなら徹底的に」これが受注率100%の秘訣』、『倒産寸前からの巻き返し ターゲットは “Enthusiasts”(車好き)市場』などは、以下から。

【特別連載】タイヤ業界人生40年 失敗は失敗じゃない。 諦めたら失敗なだけ。
【特別連載】やるか、やらないか。 『やるなら徹底的に』 これが受注率100%の秘訣
【特別連載】20代の若造、世界30ヶ国を回る
【特別連載】倒産寸前からの巻き返し ターゲットは “Enthusiasts”(車好き)市場
【特別連載】〜エピローグ1〜 次の時代へ贈る
【特別連載】〜エピローグ2〜 諦めなかったこと、出会いの運に恵まれたこと。 我が人生、これに尽きる

(12/24/2025)

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