和室での作法 畳の縁を踏まない理由|べっぴん塾

第三十九回

和室での作法
畳の縁を踏まない理由

畳で敷き詰められた部屋、和室。和室では「畳の縁を踏んではいけない」と言われます。なぜそう言われるのでしょうか。その理由はいくつもありますが、この度はその内の二つの理由を紹介したいと思います。

一つ目は、「相手を尊重する一線」としての畳の縁という役割があります。日本には、物(衝立や扇子等)を相手との境界線と見立て、手前で控えるという作法があり、その境界線の役割を畳の縁も担います。見立てた一線から下がることで敬意を表しつつ、相手の空間に入らないようにして、心地良くお過ごしいただきます。和室では、お持ちしたお茶も相手が座っている畳の縁の外側に置き、縁内にはご自身で入れていただきます。こちらも「相手の領域に立ち入らない」という心遣いによるものです。

海外の人にお褒めいただくことがある日本の礼儀作法ですが、そのひとつに、日本の野球選手が塁間に引かれた白線を踏まないことがいわれます。野球をされていた方に、なぜ踏まないようになさるのかをお尋ねすると、「どなたかが引いて下さった美しい線を踏んで乱すことはできないという気持ち」や「野球場への敬意」からとのこと。その気持ちが自然と線を踏まないという動作を生み出しているのでしょう。「畳の縁を踏まない」ももとは相手を思う気持ちが自ずとそうさせ、いつしか「踏まないようにしましょう」という作法になったのではないかと思います。

他にも、畳の縁に躓いて粗相をしない為に踏まないようにするという理由もあります。
縁は、畳表よりもわずかに厚みがあります。豪華な糸で織られた伝統的な縁は更に厚みがあり、躓く恐れがある為注意が必要です。「躓くかもしれないから、縁を踏まないのよ」と子どもたちの注意を促すと、躓く可能性があるという意識を持つことにつながります。危険を予測し、どう回避や対処するかを考える習慣を身につける。躓きそうではない縁だからこそ、「まさか」を予測する良い訓練の機会となるのです。

(9/8/2025)


筆者・森 日和

禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。