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Vol.21 ▶︎エンジェルズ・ランディングへの出発地「グロットー」
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陽が昇るにつれ青みが増してくる空と、赤い岩肌の絶妙なコントラストが美しい。谷間を吹き抜ける風もいつの間にか止んだようだ。 グランドキャニオンを始めアリゾナ州、ユタ州には数多くの壮大なスケールの渓谷があるが、それらの殆どが谷の上から見下ろすものだ。一方、ザイオンキャニオンは、バージンリバーが悠久の時をかけて、岩を削り作り上げた渓谷の底に足を踏み入れる。川のほとりから見上げる、幾重にも地層が積み重なった巨岩が織りなす景色は、グランドキャニオンの谷底からのそれと酷似している。言い換えれば、ザイオンキャニオンでは、何時間ものトレッキングをすることなく、グランドキャニオンの谷底の絶景を楽しめるという事だ。 バージンリバーを流れる水は、時に激流と化し岸壁の一部を崩壊する。園内の唯一のルートであるザイオンキャニオン・シーニックドライブが通行止めとなる事も珍しくない。数億年経った今日も浸食は日々繰り返され、壮大な芸術作品ともいえる渓谷の創造は続いている。 軽快にバイクを漕ぎ、エンジェルズ・ランディングの出発点となるグロットーに到着すると、既に大勢の人で賑わっていた。
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数珠繋ぎで並ぶハイカーたち
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昨今のエンジェルズ・ランディング人気は聞いていたが、パンデミック下でシャトルバスも人数を制限して運航しているため、仄かな期待を抱いていたが、見事に裏切られた。バイクを所定の場所に置き、ソーシャルディスタンスを保ちながらトレイルに向かう。 天使が降り立つ峰、エンジェルズ・ランディングはバージンリバー脇に聳え立つ独立峰。尖った山頂までの距離は片道約4㎞、標高差約450m。最後の数百メートルは、切り立った崖を鎖をたどって登るスリル満点のルートだ。鎖場までの3キロ超は急勾配をスイッチバックで上ってゆく。 ハイカーの数が多いのもさることながら、場違いな感じの人が多いのに驚かされる。スーパーの買い物袋をもって、ぶらぶら歩く人たち。インスタ映えを狙ってか、やけに着飾った人たち。ここ数年、ソーシャルメディアの影響か、国立公園で見かける観光客の構成が大きく変わったと感じているのは私だけではないだろう。
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いつもはトレイルを走る私だが、今回は家内を同伴。さらに周囲にはたくさんのハイカー達。のんびりと歩くトレイルでは、景色を楽しむ余裕が十分にある。ザイオンとは旧約聖書に登場する丘の名称である。「約束の地」あるいは、「聖なる丘」を意味する。目の前に迫る天使の峰、その後ろに控えるザイオンの峰々はまさに、聖なる丘にふさわしい神々しい美しさだ。
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スイッチバックの途中にて
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スイッチバックで喘ぐ人々を横目に、のんびりと、しかし休まず歩き続ける事、一時間程度。予想外に早く鎖場に付いた。 そこにはなんと、鎖場の順番を待つ大勢の人だかり。急こう配の岩場に設置された鎖に沿って、数珠繋ぎでハイカーが並んでいる。数年前に独りで来た時とは比較にならない数だ。 コロナ対策様に設置された看板にはマスク着用、手を殺菌、安全な距離を保つ、追い抜き禁止という注意書きがある。断崖絶壁で鎖につかまりながらの殺菌は現実的ではない。マスク未着用のハイカーも多数いる。暫くその場で様子を見るが、続々と来るハイカーが途切れる様子はない。家内の希望を尊重して天使の峰は、また次回のお楽しみとした。(その後もエンジェルズランディングの人気は衰えず、2022年4月1日から混雑緩和のために事前パーミット取得のパイロットプログラムが採用となっている)
※本文はパンデミック規制下での出来事が含まれ、現在は状況が異なる場合があります。
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(7/20/2022)
Nick D (ニックディー)
コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈け回る毎日。「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。