容疑者の「性依存」が犯行の動機か? アトランタ連続銃撃事件。

アメリカ101 第76回

ジョージア州アトランタでアジア系女性6人を含む8人が犠牲となった連続銃撃事件(3月16日)から1週間も経たない22日、今度はコロラド州ボルダーのスーパーマーケットで銃撃事件があり、警官1人を含む10人が死亡しました。銃社会であるアメリカでは、もはや日常茶飯事にすらなっている大量殺人事件ですが、前者は、犠牲者の大部分がアジア系女性だったことから、昨年来アメリカ全土で増加しているアジア系市民に対するヘイトクライム(憎悪事件)なのかが注目されています。捜査当局は、白人青年ロバート・アーロン・ロング容疑者(21)を殺人罪容疑で逮捕したのですが、人種差別に基づくヘイトクライムであるかどうかの判断で決め手となる動機については、「性依存症」によるとの自供があったとしているものの、取り調べ中として明言を避けています。しかし、これまで断片的に報道されてきたさまざまなヘイトクライムとは比較にならない凶悪犯罪だけに、ジョー・バイデン、カマラ・ハリス正副大統領が揃ってアトランタを訪れ、アジア系市民との対話に臨んだほか、全米各地で抗議デモが展開されるなど大きな政治問題となっています。

 

アトランタでの銃撃事件は、アメリカで最大の韓国人街(コリアタウン)を抱えるロサンゼルスや、太平洋を隔てた韓国でも大きな波紋を広げています。それというのも、事件があった3カ所のマッサージ店での犠牲者のうち4人が51歳から74歳の韓国系の経営者や従業員だったからです。

 

韓国では近年、ラッパーで音楽プロデュサーのPSY(サイ)やヒップホップグループBTS(防弾少年団)がアメリカで大人気となり、さらには映画界でも、相次いで韓国の映画作品が話題を集め、昨年は「パラサイト 半地下の家族」が外国語映画として初めてアカデミー賞の最高名誉である作品賞を受賞しただけでなく4部門で受賞、また今年も、アーカンソー州に移住した韓国人一家を描いた韓国人スタッフ、俳優による「ミナリ」(雑草「セリ」の意)が作品、監督、脚本など6部門でノミネートされるなど“韓国ブーム”で意気軒高といったところでした。さらに今月には、バイデン政権の外交・軍事のトップであるアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が初の海外公式訪問の一環として日本のあとに韓国を訪れたこともあって、アメリカでの韓国の好感度が高くなっていたところへ、水を差すようなニュースになりました。

 

ニューヨーク・タイムズ紙によると、事件のあった一か所のマッサージ店「ゴールデン・スパ」では2011年から2014年の間に、警察のおとり捜査で少なくとも11人が売春容疑で逮捕されたとの調書が残されており、これらの店舗はいわゆる風俗店とみられています。容疑者のロングは、ローマ・カトリック教会に次ぐアメリカで第二の信者数を擁するキリスト教会組織である南部バプテスト連盟傘下の教会に属する熱心な信者で、「結婚以外のセックス」を禁止する教えに反して、マッサージ店を繰り返し利用していたとみられ、「性依存症」から脱するため教会のリハビリ施設に入所していたこともあったようです。警察の調べには、誘惑を断ち切るために犯行に及んだと供述、逮捕時には、フロリダのポルノ関連企業で同様の犯行に及ぶ途中だったとのこと。

 

犠牲者は男女2人の白人を除けば、残り6人はいずれもアジア系女性であり、「人種、宗教、身体障害、性的指向、人種、ジェンダーが動機の一部あるいは全部である、人間あるいは財産に対する犯罪行為」というFBI(連邦捜査局)のヘイトクライムの定義に該当するわけですが、アメリカが抱える諸課題の根深さを改めて示したものであることは間違いありません。

 


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

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