メジャーリーグ改革「National Pastime=野球」の時代復活か

アメリカ101 第107回

 

今週からワールド・シリーズが始まっています。ロサンゼルス・ドジャースを破ってナショナル・リーグで優勝したアトランタ・ブレーブスと、アメリカン・リーグの覇者ヒューストン・アストロズが対戦するFall Classicで、両軍監督の合計年齢が過去最高というベテラン同士が率いる対戦。昨シーズンは新型コロナウイルス禍とあって中立地での開催という、いくぶん気が抜けたシリーズでしたが、今季は試合は双方の本拠地での開催というわけで、地元ファンの熱烈な応援でのスタートとなり、表面的には、テレビやラジオ、新聞といった伝統的なメディアでの大々的な報道ぶりも例年通りです。しかし一方で、アメリカのメディアやファンの間では近年、この時期になると、年中行事のように、National Pastimeとしてのメジャーリーグベースボール(MLB)の衰退と改革の必要性が話題になっています。 

 

 National Pastimeを英和辞典やネットで検索すると、「(米)国民的娯楽、野球」といった表記が出てきます。アメリカ語の表現であり、「国民的(National)娯楽(Pastime)」を意味するわけです。熱心なファンが多い娯楽としてのスポーツが、アメリカでは、長年にわたり野球であったことから、「National Pastime=野球」となったようです。 

 

 「アメリカの国技は野球」というわけですが、実際は娯楽として野球の人気は1980年代にピークに達したあと、観客動員数やテレビやラジオといった放送メディアでの中継の面では、アメリカン・フットボールやバスケットボールの後塵を拝しています。それだけではなく、今や「3大スポーツひとつ」はおろか、若年層でのコミュニケーションで主役を占めるSNS(ソーシャルメディア)ではマイナー・スポーツ扱いという有様です。 

 

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、スポーツ・インスタグラムでの人気ランキング・フォロワー数で、野球選手のトップは、現役最高の選手との評価がありながら、今シーズンは早々に故障者リスト入りとなったロサンゼルス・エンゼルスの外野手マイク・トラウトです。しかし全体のランキングはフォロワー数190万で130位にとどまっています。130位以内にはNABバスケット選手25人、NFLフットボール選手9人が入っています。さらにスポーツ種目別では、MLB33位で、総合格闘技のUFC6位)やプロレスのWWF(7位)に大幅に後れをとっています。 

 

 アメリカの大衆文化・スポーツで最も注目されるのは、それが、スラングとして使われる「Cool(クール)」であるかどうかです。南部黒人の間で使われていた表現が発端で、ジャズ・ミュージシャンを通じて「アメリカ語」として定着した、使い勝手のいい万能語です。計算ずくめで評価するのではなく、感覚的に素晴らしいかどうかというわけですが、その尺度からすると、近年のメジャーリーグ野球は「クールでない」ということでしょう。プレーにまつわる数値を綿密に分析して試合の展開を進めていくという統計分析論(analytics)を重視するあまり、「投高打低」といわれるような、理屈優先の精密なプレーが求められ、選手の咄嗟の判断といった感情的なプレーが軽視されるという試合展開で、面白くないというファンの声が高まっています。 

 

 MLBコミッショナーのロブ・マンフレッドは、2015年に就任以来メジャーリーグ改革に積極的に乗り出し、主として試合時間の短縮を狙った具体策を採用しているほか、黒人選手および同観客の減少を受けたマイノリティー呼び戻し策などで専任役員を配置するなどの取り組みを進めています。しかし改革には、強力な発言力を有する選手会(ユニオン)の賛同も必要とあって、反転には至っておらず、まだまだ苦難が続くようです。

 

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(10/22/2021)

 

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