大揺れのハリウッド、ゴールデングローブ賞は存亡の危機に

アメリカ101 第83回

 

 映画産業を中心としたエンタメ業界「世界の首都」であるハリウッドでの大揺れが続いています。昨年来の新型コロナウイルス・パンデミックで映画館が全面閉鎖、映画製作のスケジュールに大幅な狂いが生じるという大打撃を被ったハリウッドに、追い打ちをかけるように、昨年の映画界の総決算となる「受賞シーズン」で、主役のアカデミー賞にとって露払いとなるゴールデン・グローブ賞の主催団体ハリウッド外国人記者協会(HFPA)がロサンゼルス・タイムズ紙による「スキャンダル塗れの実態」暴露報道(221日付)で、その存在意義に「?」マークが付けられたのに続き、従来のドルビー・シアターに加えて意表をついたユニオン・ステーションを加えた2カ所を会場とした新機軸のアカデミー賞授賞式が、派手なクライマックスで幕を閉じるという狙いが外れて尻すぼみに終わり、いずれもテレビ視聴率が史上最低という有様で、映画産業自体の将来への懸念さえ浮上する有様です。 

 ゴールデン・グローブ賞は、長年にわたり、そのいかがわしさが指摘されてきました。ハリウッドを取材する外国人記者を束ねたとする仰々しい団体名のHFPAなのですが、その会員数は、近年増やしてきたというものの、現時点ではわずか86人(ニューヨーク・タイムズ紙)です。そして、80年前の発足時以降、長年にわたりハリウッド映画最大の市場にひとつだった日本出身のジャーナリストが初めて会員となったのは実に1986年で、現在でもわずか4人にすぎません(ウィキペディア日本語版)。ティーン時代から映画ファンだった筆者も、洋画専門誌を熱心に購読していたこともあって、記者としてHFPAに属するのが漠とした夢でした。第一線記者生活の最後をロサンゼルス駐在特派員としで過ごすことになって、HFPAへの入会も考えたのですが、その超排他的クラブとしての敷居の高さから早々に断念した記憶があります。 

 会員は世界50数か国出身のジャーナリストで構成されているとされるものの、英紙ガーディアンによると、真っ当なジャーナリストに加えて、元ボディビルダー、脇役俳優、パートタイム作家などさまざまな経歴の持ち主がいるとのこと。HFPAの最大の財源は、NBCテレビによる独占放映権料で、昨年は2740万ドルにも達しています。HFPAのブランドでスポンサーを確保し、毎回ビバリーヒルズのヒルトン・ホテルを会場に、大テーブルに着席するパーティー形式で大スターから映画製作企業関係者などが一堂に会するゴールデン・グローブ授賞式は毎年1月の一大イベントで、通常2月から3月に開催されるアカデミー賞授賞式の前哨戦と位置付けられています。 

 ロサンゼルス・タイムズ紙による全文4692 語(ワード)もの長大な「暴露記事」は、HFPAが単なるジャーナリストによる非営利団体ではなく、会員のメリットは、「junket」「perk」といった映画製作会社やPR会社による費用丸抱えの旅行や金品贈与に加えて、HFPA内のさまざまな委員会のメンバーとなると、その報酬として年間約2万ドルを受け取るといった恩恵があるいかがわしい組織であり、正当性、信頼性、倫理、多様性などの各面での問題点を詳細に掘り下げた調査報道です。HFPA側は、会員の追加増員や黒人会員参入による多様性確保などの改革案を早急にまとめる方針を明らかにしているものの、不十分として批判は高まる一方です。 

 これらの報道で、長年看過されてきたHFPL内部の実態や映画業界の癒着関係が明るみになり、トム・クルーズは「74日に生まれて」(1989年)など3作品で受賞した三つのゴールデン・グローブ賞を返上、スカーレット・ヨハンソンもHFPAメンバーによるセクハラ紛いの発言などを理由に絶縁を宣言。さらには、HFPAの対応の遅れに業を煮やしたNBCが、来年1月の授賞式放映中止を発表するなど波紋が拡がりつつあり、HHFPA騒動はまだまだ続きます。 


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

 

 

 

 

 

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