10年ぶりにアメリカの人口増加 国勢調査結果とカリフォルニア州

アメリカ101 第81回

 

アメリカ最大の州であるカリフォルニアのパワーがピークを越えたということでしょうか。4月26日に発表となった昨年の国勢調査結果によると、1850年に州に昇格して初めてワシントンの連邦議会に2人の下院議員を送り込んで以来170年、国勢調査による人口の増減に基づき州別の選出議員数を“自動的”に調整するアメリカの制度のもとで一貫して議員数を増やし、現在では53人を数えるカリフォルニア州ですが、今回初めて議員数が1議席減少することになったからです。そして何かとライバル視されるテキサス州は2議席増の38となる見通しです。過去トップを続けてきたニューヨークが現在は、フロリダの後塵も拝して4位に後退するという前例があるものの、カリフォルニアは当面は人口でトップの座を維持するのは間違いないのですが、アメリカのダイナミックな変貌の一面を映したものといえそうです。

 

10年毎に実施される国勢調査は憲法で定められた厳粛な国家行為で、州別の下院議員選出数を左右するほか、連邦政府予算の“地方交付金”の配分といった財政面での支援規模にも影響する重要なイベントです。今回は、当時共和党のドナルド・トランプ大統領が、「なるべく民主党支持層を低めに算定する」という露骨な党利党略を前面に打ち出し、調査項目に米国籍の有無を問う項目の追加や不法滞在者を別扱いし、下院議員選出数算定の“人口”には加えないといった新たな方式導入を図ったのですが、連邦最高裁の判断などで断念した経緯があります。カリフォルニアの場合は、ここ数年の人口推計からみて、人口の伸びが頭打ちで、テキサス、フロリダといった人口増が顕著な“新興州”に押されて、最悪のケースでは2議席減という悲観論もあったのですが、辛うじて1議席減にとどまる見通しとなっています。

 

これにはカリフォルニア州政府による大規模な広宣活動が効果をあげたとの見方があるようです。国勢調査の重要性を訴え、その参加を促すPR作戦は連邦政府レベルでは国勢局が各州で実施しますが、そのフォローアップは各州政府次第です。すべてを国勢局に任せて、広宣活動を一切しないテキサス、フロリダなど24州がある一方で、カリフォルニアのように、州政府が国勢局の広宣予算の3分1にも達する1億8700万ドルを支出するところもあるという、例によって“合州国”らしいアメリカを反映するような対応の違いがあるわけです。

 

国勢局による最初の公式発表によると、2020年4月1日現在のアメリカの総人口は3億3144万9281人です。前回2010年調査比で7・4%増ですが、これは1930年の大恐慌時に次ぐ史上2番目に低い人口増加率です。最大の人口はカリフォルニア(3950万人)で、最小はワイオミング(57万6000人)。この新統計により州別に新たに選出下院議員数を算定すると、議席増となるのは、2議席増のテキサス、各1議席増のコロラド、フロリダ、モンタナ、ノースカロライナ、オレゴンの計6州。減少は、いずれも1議席減のカリフォルニア、イリノイ、ミシガン、ニューヨーク、オハイオ、ペンシルベニア、ウェストバージニアの7州です。全体として、人口動態は中西部や北東部諸州から南部および西部諸州へという趨勢が続いています。

 

今後は、今年9月30日までに各州別の地域的人口構成が発表されるのを受けて、議席の増減の対象となる13州で選挙区の新たな区割り地図作成作業が始まります。区割り作業は各州が独自に進めるのですが、それぞれの州で支配的な政治力を有する政党が党利党略最優先で、自党に有利な線引きをする州が大部分で、超党派の中立的な観点での区割りをするカリフォルニアなどは限られており、一部の州では新しい区割りをめぐる激しい抗争が続くことになります。新しい選挙区での投票は2020年11月の中間選挙からで、下院での民主党と共和党の勢力が拮抗しているため、今後1年はアメリカの政治動向の台風の目となる見通しです。

 


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

 

 

 

 

 

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