トランプ前大統領の機密文書持ち出し疑惑を捜査しているジャック・スミス特別検察官は、国防に関する情報の取り払いを定めた連邦法などに違反した罪でトランプ氏を起訴した。計37件、とんでもない数だ。
トランプ氏は2021年1月20日にホワイトハウスを去る際、フロリダの邸宅「マール・ア・ラーゴ」に機密書類入りの段ボール箱を運び入れた。大統領時代に別荘として使っていた場所だが、会員制の高級リゾートとして利用者も出入りした。当初は大広間のステージに積み上げられ、3月にはビジネスセンターに移され、その後はトイレや浴室にも保管された。5月には収納室に移されたが、収納室に繋がる廊下はプールにも続き利用客も通る。12月には複数の資料が床に散乱しているのが目撃されている。この中の文書には「TO USA, FVEY」との記載が。米英豪などの英語圏5各国の枠組み「ファイブ・アイズ」に限って共有される重要情報もあった。
いずれにしても大統領経験者が起訴されることはアメリカ史上過去にない大事件だ。それにも関わらずトランプ氏はいつもの調子ですぐに反論。自身のSNSで「汚い手口だ」と投稿し、強気の姿勢を崩していない。更に3月にはニューヨークで不倫関係の口止め料を不正に処理したと起訴されたが、かえって支持者の結束を高める始末に。
共和党支持者層の間に司法当局への不振が高まっている背景がある。トランプ氏に不信感を持つ、時期大統領選挙を見据える共和党議員も、トランプ層を手に入れたいので不倫騒動も黙認している有り様。かといって民主党も。バイデン大統領自身も事務所や自宅などで副大統領時代の機密文書が見つかっているので攻撃しづらい。
正直、日本の政界でこんな事件が起きたら即刻総理交代の大事件になる。最も今の日本にこのような世界が震撼する重大案件があるのか疑問だが。それにしても政治のモラルの低下は否めない。
アメリカのエレメンタリー、ミドル、ハイ・スクールの教師の皆さんはこの問題を教え子にどう説明しているのか。「不倫もみ消しの前大統領」を肯定的に話すのか。支持者達が大声あげてマスコミ批判をする姿を何と説明するのか。2021年1月の連邦議会襲撃事件への関与問題、20年大統領選でジョージア州の選挙結果を覆そうとした疑惑を学生から質問されたら、どの立場、どのスタンスで答えるのか気になる。
勿論この問題は家庭でも同じ事が言える。家族で食卓を囲み子供たちにトランプ前大統領の発言、行動の是非を聞かれたら、向き合ってちゃんと答える事が出来るのだろうか。明確な政治姿勢を国民が持っているのか、全米は問われる時が来ている。
■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。