読売新聞によると米英のエンターテイメント業界で論争が起きているらしい。AIで生成された「架空の女優」が問題になっている。製作者は、複数のタレント事務所が関心を持っていると説明するが、本物の俳優達は懸念を示しているそうだ。
英国のAI映像制作会社がチャットGPTなど10種類のツールを使って生成、5月より「インスタグラム」に登場し人気者になっている。早速私もネットで見てみると、本物の人間としか思えずびっくり。アクションシーンあり、プライベート風ショットもあり、好感度も高そう。このAI女優ティリー・ノーウッドの業界入りに、英国女優エミリー・ブランドさんは米バラエティー誌に「私たちは終わりだ」と危機感を募らせた。さらにハリウッド俳優が加入する全米映画俳優組合は「AI女優には人生経験や感情がなく、観客も関心がないだろう。俳優を失業させ、生活を脅かして、人間の芸術性を落としめるだけ」と批判した。勿論正論ではある。しかしこれまで特撮映画などで人間とAI俳優と怪獣、動物は数多く共演し、この方式でハリウッドは多くの話題作を提供してきた。AI俳優の存在価値は脚本、監督、観客に委ねられるのでは。
例えば生まれた苦しみや、人間との付き合い方に悩んだり、家族のいない寂しさなどをAI女優が演じ、涙腺を動かす映画を製作すれば、世論の評価も変わるだろうしAI俳優のポジションも上がっていくのでは。そうなればロサンゼルス・ドジャースの大谷選手のボブルヘッド人形みたいなキャラクターグッズも発売される。特に10代~Z世代は普段からチャットGPTを使いこなしているので抵抗感などはなく、むしろ生々しい人間より気軽に感じるのでは。チャットが更に進化すると、専属事務所に連絡すると、AI女優さんと2人だけでお話が出来る特別料金のパスワードも教えてくれるサービスも近未来では可能となる。まさにハリウッドAI女優とデートが出来る。
AI女優は風邪を引かない。わがままも不満も言わない。歳も取らなかった。そう思われているが、これからは病気にもなり、美貌に苦しみ、老いて、やがて死んでゆく、哀愁のあるAI女優も出てくる気がする。「人生経験がない、感情がない」そんな批判を逆手に取って役柄を演じ続ける。かつての人気ボクシング漫画「あしたのジョー」の主人公矢吹ジョーと宿敵力石徹との対戦の後、無理な減量で力石は死んでしまい日本中が涙し、一か月後に盛大な葬儀が行われ社会現象に。さらにジョー最後の試合では立つことも出来ずコーナーポストで灰のように真っ白に燃え尽きたシーンが、今も語り草となっている。
AI女優を生かすも殺すも実は人間次第。近未来は楽しい時代に向かっている。
■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。

