筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信013
佐々木朗希、ドジャース入団
なぜ「悪の帝国」を選んだのか?
日米の野球ファンの注目を集めた佐々木朗希をめぐる争奪戦。大方の予想通り、佐々木がロサンゼルス・ドジャースを選んで決着がつきました。
大谷翔平の渡米以降、メジャーリーグ関係者が最も注目していた日本人選手が佐々木です。23歳という若さで、100マイルを超える速球と、消えるようなフォークを操る佐々木は、世界最高峰のメジャーでも「即エースになれる逸材」として期待されています。史上最年少で完全試合を達成した投手としての潜在能力は、大谷やダルビッシュ有をも上回るかもしれません。
さらに、25歳未満での移籍となるため、規則によって契約金は抑えられ、貧乏チームにも獲得のチャンスがある。球団側のリスクもほとんどない。佐々木の動向に米球界が興奮したのも無理はありません。
理想的な育成環境
佐々木がドジャースを選んだ理由については、執筆時点では本人の口から語られてはいませんが、これまでに報じられている情報から推測することはできます。
最大の理由は、「世界最高の投手」に成長するために最適な環境だと思ったからでしょう。候補球団との面談では、ほとんど口を開くことがなかったという佐々木ですが、ピッチングの話題になった途端、興味を示したといいます。
ドジャースの最新技術やデータを駆使した投手育成には定評があります。また、南カリフォルニアの温暖で雨の少ない気候は、投手にとって体調管理がしやすい理想的な環境です。
それにドジャースは、佐々木を長期的な視野で育てる戦力的な余裕があります。ポストシーズン進出は当たり前で、あくまでワールドシリーズ制覇に目標を定めているため、レギュラーシーズンで投手に無理をさせるようなことはしません。それに、二刀流の大谷への負担を考慮して、他球団が5人の先発投手でローテーションを回すところをドジャースは6人で回すと見られているので、佐々木もより余裕を持って新しい環境に適応できます。
さらに、西海岸のファンやメディアは東海岸に比べて穏やかな気質です。昨年、優勝したということもあり、佐々木がいきなり活躍できなかったとしても、ファンが目くじらを立てるようなことはないでしょう。大谷やムーキー・ベッツなどのスーパースターがいるため、鳴り物入りで入団した佐々木が、一人でスポットライトを浴びたり、重圧を背負うこともありません。
メジャーの先輩である大谷や山本由伸が、そうした環境に太鼓判を押して佐々木の説得に一役買ったという可能性もあります。佐々木自身、まだ発展途上であることを自覚していて、世界一の投手になるために、焦らずに成長できる環境を選んだのでしょう。
ドジャース黄金時代
南カリフォルニア在住の日本人にとって、このニュースは嬉しい限りですが、野球界では落胆や怒りの声も広がっています。
今オフのドジャースは、ワールドシリーズを制した主な戦力はそのままに、佐々木だけでなく、最優秀投手に与えられるサイ・ヤング賞を2度も受賞しているブレイク・スネルとも契約しました。ドジャースファンは大喜びですが、他球団のファンからは、「悪の帝国」が金に物を言わせてさらに強大になったと批判されています。
しかし、ドジャースが成功しているのは、選手たちが「来たい」と思う環境を整え、無駄遣いをせず必要な駒を揃えているからです。球団経営のお手本と言えるかもしれません。それに、スーパースターの集まった圧倒的に強いチームがあった方が、スポーツは盛り上がります。今年のメジャーは、「ドジャース包囲網」というテーマを中心に回っていくでしょう。
ドジャースが2000年のヤンキース以来となる連覇を果たして黄金時代へと突入するのか?2025年も、ますますメジャーリーグから目が離せません。
(1/122/2025)