青山に店を構え日本のIVYファッション発祥の地とも言われる伝説の「VAN・KENT SHOP」が来年3月をもって閉店する事になった。学生時代から憧れ、お店に入ることすら緊張したVAN。当時アメリカIVYリーグの学生達が着て流行っていたボタンダウンのシャツ、エンブレム付きの紺のブレザー、スタジアムジャンバー、マドラスチェックのバミューダパンツ、コインローファーなど、学生服しか知らない日本の若者にとってその格好良さは黒船以上の衝撃だった。
アメリカでは学生の普段着だったが、1ドル360円時代、VANSHOPのスタジアムジャンバーは9千円、地方出身の大学生の住む家賃が早稲田辺りで4畳半5千円、新入社員の初任給が1万8千円、如何に高額だったか。欲しくても自分たち学生にはとても手が出る価格ではなかった。そんな訳で着飾ったウインドウを青山通りの外から眺めることしかできなった。そんな憧れからか、この歳になった今でもお店に行くとドキドキする。若い頃の思い出が甦る素敵な空間だ。
青春の聖地が来年3月になくなる。店長に聞いた。「若い顧客がどうしても育たない。顧客の平均年齢が55歳以上。70歳以上のお客様はリタイヤして年金生活の方が多く新しい洋服の購入を控えています。」そうなんです、当時若者に大流行したVANファッションも新しいファンを掴めず、オシャレな高齢者と共にブランド事態も歳をとってしまった。
これって芸能界でもよくある話。デビューした時は青春スターだったが、年齢を重ね、気が付けばスターもファンもみんな老人になっている。先日舟木一夫さんのコンサートに行った時、舟木さん本人がこの現象をギャグにしてお客さんに話していた。
しかし、スターはともかく、ブランドは回復のチャンスは幾らでもある。トラディショナルファッションなら、若い女性にターゲットを広げては。カラフルなウインドブレーカー、ヨットパーカー、赤やベージュのダッフルコートも小太りな中年男性が着るより似合う。ボルドーカラーのクールネックセーターも親父が着ると日曜日のパパだが、娘が素肌にルーズに着こなせばセクシー。洋服って着る人によって生まれ変わることが出来る。
青山のお店は閉店になるが、このままでは勿体なさ過ぎる。2025年VAN復活計画は発進するに決まっている。小さな店でも、青山じゃなくても、セレクトSHOPでも構わない。創立者の石津謙介氏の精神「金が無くても創造力さえあれば」を心に頑張って欲しい。いつの日かZ世代が憧れるブランドになる事を信じて。
■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。