45年来の付き合いになる。いつものように「鶴ちゃん元気?相変わらず忙しそうだね!」の言葉に「テリーさん、いま業界で鶴ちゃんって言ってくる人が居なくて寂しいから、凄くイイね!」と本当に嬉しそうに答えた。最近では、片岡さん、鶴太郎さんと呼ばれているそうだ。ここ数十年の活躍は、お笑い芸人と言うより、画家、俳優、ヨガの修行僧のイメージが強いので当然かも知れない。一緒にバラエティ番組をやっていた若かりし頃は、女性の下着を頭から被ってスタジオで暴れていた。今なら放送禁止間違いなしの企画ばかりで、いつ会っても昔話が尽きない。
そんな鶴ちゃんが何故お笑いから距離を置いて役者の道に進んだのか。当時の人気番組『俺たちひょうきん族』(フジテレビ)で共演していたビートたけしさんや明石家さんまさんを見て「あんな天才にはなれない。自分は小森のおばちゃまや近藤真彦の物まね芸人でやって来たがこのままでは芸能界で生き残れない。」そんな思いで大好きな画家、役者としての進路を開いたそうだ。普通その決断はなかなか出来ない。
振り返ると、全裸で飛び回っていた20代の頃も欠かさず日記を書いていると聞き驚いたのを思い出した。今でも毎日続けているそうだ。繊細な感性にも年季が入っている。起床は午後11時、2時間掛けて洗顔、歯磨き、人肌の塩水での鼻うがい、毛髪や顔を整え、午前1時から5時までヨガ修行。その間白湯しか口にしない。5時から朝食に入る。食事は1日1食。料理はほとんど手作りの精進料理。7時以降は俳優、絵画の仕事をこなし、就寝は夕方6時頃。まさに修行僧のような生活ではないか。
とは言っても、実は007ショーンコネリーのような男前になりたいらしく、そのための努力も怠らない。歳を重ねて大事なことは、顔面にある無駄な肉を取ることらしい。そして眼光の鋭さを鍛えること。特に役者として目力が無くなるとシリアスな演技が出来ないからと。確かに、無実の罪で逃亡生活を余儀なくされる逃亡者役はメイクだけではごまかせない。そうか、鶴ちゃんは2時間掛けて顔を整えているのは、いつまでも役者で居たい思いからなのか。
鶴ちゃんの主演映画出世作、大林宣彦監督の『異人たちの夏』の大抜擢、周りの反対を押し切って監督が決断した訳は、当時ボクシングで鍛えていた鶴ちゃんの筋肉隆々の二の腕が主人公の寿司職人の腕そのものだったからだ。これってカッコ良すぎじゃないですか。いつオファーが来るかもわからない仕事のために。
私には出来そうもないので、取り敢えず、トムクルーズが映画『トップガン マーヴェリック』で着ていたフライトジャケットCWUを横須賀で買いました!
■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。