何を隠そう私は由紀さおりさんが大好きなのだ。初めて彼女を知ったのは、私が20歳の大学生の頃。『夜明けのスキャット』でデビューしたての由紀さんがテレビ歌っているのを見た時だった。
背中越しに聞こえてくる透き通る歌声とスキャットに魅せられ振り返ると、画面に釘づけになった事を覚えている。その上、博多人形のような整った顔立ちに「なんて綺麗な人なんだろう。こんな素敵な人には実際は会えないのだろうな~。」と普通に考えていた。
大学卒業後、進路も決まらずフラフラしていた私がひょんなことからテレビ業界に就職し、1〜2年経過して気持ちに余裕が出来た頃「そういえば同じ業界にいるのに由紀さおりさんに会えないな~。」と思うようになっていた。彼女の活動の場所は歌手、ドラマ、コントが主で、私は『元気が出るテレビ』『ねるとん』『浅ヤン』など素人参加番組が多かったためニアミスはしてもゆっくり話せる機会など全くなかった。芸能界って意外と広いんです。
あれから52年…!!
BS日テレ『テリー伊藤の死にたくないテレビ』(2022年5月27日午後7時から9時放送)が登場することになった。この番組は私が久しぶりに企画・演出し、司会までする2時間特番。気合が入った!その中の1企画として由紀さおりさんと念願のデートが実現することになった。
私が勝手に決めた待ち合わせ場所は、東京湾の若洲ヨットハーバー沿いの丘の上の公園。これには訳がある。彼女のヒット曲『初恋の丘』をイメージしたのだ。北山修作詞「大人になっても一人ぽっちはつらい 初恋の丘へも一度帰りたいな♪」が実に良い。
そして念願のデート!潮風がさわやかなベンチを気に入った様子。つかみはOK! …ただし制限時間があったのだ。企画の都合上、それも30分。何と残酷な!しかし愚痴っている場合ではない。早速20歳の時夢見たデートを!
まずは「二人でアイスクリーム大作戦」で甘いムードに持ち込もうと思っていたのだが、当日気温が低くアイスクリームを食べた後の由紀さんの「寒い」の一言で失敗!その後色々作戦を繰り出し、最後はとっておきの「二人でシャボン玉」。空に消えてゆくシャボン玉を彼女はいつまでも見つめていた。完全に大成功と思ったのだが、ポツンと最後に「初恋もシャボン玉をも儚く消えるのね…」と。
そうなんです、52年間私が夢見た「初恋の丘で愛を打ち明ける」という願いは叶ったが、儚く消えていった。とは言っても誰もが憧れの芸能人とデート出来るはずはない!幸せな時間でした。
帰ってゆく由紀さんの後ろ姿が美しかった。
■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。