アメリカ101 第74回
このところの新型コロナウイルス禍で、再びデジタル・ディバイド(ネット時代の情報格差、digital divide)問題が緊急課題として浮び上がっています。コロナ関係の一連の手続きがネットを前提としているため、パソコンがない、Wi-Fiへのアクセスが不十分、その操作の不慣れといったさまざまな要因で、ワクチン接種を受けられない人々が増えているからです。そのため、ワクチン接種にあたる行政担当機関や医療機関が、デジタル・ディバイドを克服するための方策に取り組んでいるものの、その遅れにより、低所得者層やホームレスの人々の間でのワクチン接種が遅延し、致命的な結果をもたらしかねない状況にあります。
デジタル・ディバイドとは、「ハイテク時代の到来で、パソコン、インターネットなどの情報通信技術(ICT)を利用できる者と利用できない者にもたらされた格差」といった定義がなされており、「情報格差」「デジタル格差」「IT格差」などの訳語が使われています。その格差には、国家間のレベルから、同じ国内での地域格差などありますが、英語辞書としての最高権威のあるOED(Oxford English Dictionary)によると、1994年の初出以来、その格差(divide)は主として児童生徒間の教育面で顕著な影響を与えるものとして、教育問題の一環として重視されてきました。しかしコロナ禍で、感染検査やワクチン接種に関する手順や予約方法などの具体的な情報が主としてネットを通じて伝えられているため、デジタル格差がもたらす深刻な影響が明らかになりつつあります。
筆者自身、ここ数週間の個人的な体験を通じて、格差の存在を実感しました。例えばコロナワクチン接種ですが、第70回のコラムで触れたように、加入しているHMOのホームページを通じて、スムーズに予約、2回の接種を済ませました。75歳以上限定のため、73歳の家内は、後回しとなり、後日予約受付開始ですぐに予約したものの、3月22日の接種となりました。だがその後、別の医療機関からのメールで、ワクチン配布で余裕があるため、3月第1週の2日間限定で接種予約を受け付けるとのこと。すぐにネットで予約手続きをしたところ同月4日接種で予約を完了、無事に1回目の接種を済ますことができました。当初より2週間早めに接種ができたわけです。もしネット環境がない、操作が不慣れというデジタル格差に置かれていれば、長時間待たされた末に電話予約、当日は自身が列に加わるか長蛇のクルマの行列で待機、1日仕事となったか、あるいは煩雑なやり方に嫌気がさして、当面は接種をあきらめたかもしれません。ネットであれば、それぞれ数分で予約完了、指定された時間に出向いて30分ほどで終了したのと比較すると、デジタル格差が文字通り生死を分けたかもしれません。
そして、多くのアンジェリーノにとって不可欠な運転免許証更新でも、歴然としたデジタル格差があります。筆者の場合は5年更新の高齢者として、4月初めに期限切れとなるはずでした。昨年3月のカリフォルニア州での外出自粛令で、同年末までに失効する免許証は自動更新となったのは知っていましたが、昨年12月末にDMVから郵送の「更新通知」には、「現時点ではDMVオフィスで更新のこと。事前に予約が必要」と記載されており、通常通りDMVに出向き、視力検査と筆記試験を受ける覚悟をしていました。ところが、失効1カ月前に予約のためDMVホームページにアクセスすると、「郵送通知での『出頭』という記載のいかんにかかわらず、高齢者免許更新は手数料支払いを含めてネットあるいは郵送文書で済ますことができる」となっており、30分足らずで免許更新が完了、2-3週間後の新免許証郵送を待つだけという結果となりました。ネット格差の“被害者”だったらと考えるゾッとした次第です。ワシントン・ポスト紙によると、アメリカでネット環境がない人は7700万人とのこと。世界で情報社会として先端をいくはずのアメリカでのデジタル格差は深刻です。
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。