ロシアのウクライナ侵攻、 国民のゾンビ化が背景に

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アメリカ101 第126回

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ロシアによるウクライナ侵攻が最悪の事態に直面しています。首都キエフへのロシア軍部隊の全面攻撃が迫る中、戦火を逃れて国外に避難する難民が加速的に増加、2月24日の侵攻開始以来300万人にも達するという、第二次世界大戦以来の未曽有の惨事です。近年主として中東やアフリカの各地で、これまでに戦乱で多数の難民が住処を追われる悲劇を繰り返されてきたのですが、今回はその実態が欧米のテレビニュースを通じてリアルタイムで現地から詳細に伝えられるのは史上初めてのことでしょう。そして、多数の難民を生む背景となった無差別な市街地への砲撃や逃げ惑う難民の逃避行を捉えたテレビ映像が、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンの“蛮行”への国際的な非難の激しさを強めているといえます。

ところが、このような映像が伝えられることのない“空白地帯”があります。侵略者であるロシアです。厳しい報道規制が敷かれ、当局は、ウクライナ侵攻が同国の「非軍事化」「非ナチ化」を実現するための限定的な「特別軍事作戦」として侵攻を正当化する公式政策を採用。この路線に沿わないロシア国内での報道には厳しい罰則を加える“情報戦争”を展開しており、自国に不利な報道や映像を締め出すというロシア国民の“洗脳”に乗り出しています。その結果、ロシア駐在の西側報道機関によると、7割程度のロシア国民が、ウクライナ侵攻の実態を知らないまま、プーチン支持を堅持しているとのこと。独裁体制下での情報管理の恐ろしさを示すものでしょう。

そんな中、14日夜のロシア政府系テレビ「第一チャンネル」のニュース番組「ブレーミャ」(「時」=Time=)生放送中に、「戦争反対」「政府のプロパガンダを信じるな」などのロシア語と英語のスローガンを記したプラカードを掲げた女性がスタジオに乱入、数秒にわたり放送が続くという一幕がありました。この女性はマリーナ・オフシャンニコワという番組担当者。その後当局に拘束されました。報道規制は、「フェイク情報」の拡散には、最高で禁錮15年や罰金を科する改正刑法を導入という形で実施となり、この女性も、翌15日にデモ関連の違法行為で罰金刑となり、保釈となったものの、さらに厳しい司法判断が下される可能性があるとのこと。

この女性は、スタジオ乱入に先立って収録したビデオメッセージを公開しているのですが、その中で、自らは政府のプロパガンダに加担したとして謝罪する一方、「ロシア国民のゾンビ化を手助けしたことを恥じている」と述べています。ロシアでは、首都モスクワなどで戦争に反対する少数の市民が街頭で抗議行動を展開しているものの、直ちに当局に身柄を拘束されていまます。事実上終身大統領となったプーチンの独裁政権下で「生ける屍」が累々というロシア市民の「ゾンビ化」が、今後のウクライナ侵攻の展開次第で、どのように変わるのか、変わらないのかが今後の見所でしょう。

ロシア軍部隊の砲撃によるウクライナ国内の荒廃や難民の苦難は、報道の自由が確保されている欧米各国のメディア、とくにテレビクルーによる、文字通り命を懸けた現地取材による、臨場感あふれた映像でうかがうことができます。残念ながら日本の大手報道機関は、ウクライナでの“戦場”取材に及び腰ですが、最先端の技術を駆使したテレビ生中継を交えて報道を続けるアメリカのCNN、MSNBC、Foxニュース、イギリスのBBCワールドニュース、Skynews、ドイツのDW、フランスのFrance24といった「24/7」の英語によるニュース専門テレビ局の活躍ぶりは歴史に残るものでしょう。いずれも地上波テレビ、ケーブルテレビ、衛星テレビ、インターネットのYouTubeなどのプラットフォームで視聴可能ですので、トライしてみてください。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(3/15/2021)

 

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