大谷の「リアル二刀流/ショータイム」VSコロナ 2021年 「word of the year」は世相を反映

 

アメリカ101 第113回

年末になると、新聞やテレビで必ず話題として取り上げられるトピックに、年間十大ニュースと、「その年の世相を映した言葉」(流行語、word of the year)があります。前者は、年間を通じてのニュースというわけで、まだ一カ月弱を残した12月初めの時点では新聞紙面では見当たりません。だが世相という長めの視点を反映する流行語は、日本では、大リーグ(MLB)で大活躍した大谷翔平を称える「リアル二刀流/ショータイム」、そしてアメリカとイギリスという二大英語圏で最も権威のある2つ辞典は、それぞれ「vaccine」と「vax」でした。新型コロナウイルス禍が続く中、暗い世相を吹き飛ばすような明るいニュースを選んだ日本と、ワクチン(vaccine)接種が進んだ1年間の総括としての前向きの動きを象徴した言葉を選らんだ米英ともに、新しい年への希望を映したものとなったようです。

 

英語圏メディアが使う「Word of the year」は、文字通りですと「年間の言葉」ですが、日本語では「流行語」といった表記になっています。しかし英語では、単に「流行している言葉」というよりも、そのニュアンスからすると、「密」「災」「絆」といったように、毎年日本漢字能力協会が選ぶ漢字一文字の「今年の漢字」に等しいようです。このため、「リアル二刀流/ショータイム」という、アメリカのテレビ実況中継でアメリカのキャスターが絶叫する表現を、そのまま日本の世相を反映する言葉と理解するには無理があると思われます。「現代用語の基礎知識選2021ユーキャン新語・流行語大賞」と名付けられた日本版「年間の言葉」は、昨年は「3密」でしたし、今年も、そのベストテンに「人流」「黙食」があったのですが、それでは「暗すぎる」「寂しすぎる」という判断だったと推測しますが、どうでしょう。

 

それに比べて、アメリカを代表する英語辞典「Merriam-Webster」は、ネットを通じた利用者による単語の検索回数を集計した結果という“人気投票”だけに、サッパリしています。2020年12月にニューヨークでワクチン接種が開始された直後から「vaccine」という単語へのアクセスが急増したとのこと。その時点から1年間のアクセス増加率は6倍、2019年比では10倍ですが、こんな日常的な単語を調べる人が多くなったのは、それこそ「藁をも掴む」思いだったのかもしれません。2020年のトップも「pandemic」でしたから、コロナウイルス禍の打撃の大きさを物語っています。

 

一方英語辞典として世界最高峰オックスフォード英語辞典(OxfordEnglish Dictionar)は「vax」でした。もちろん「vaccine」の短縮語で、アメリカの新聞ではあまり見かけません。予防注射を意味する「jab」もイギリスの新聞では多用されおり、米語/英語の違いの一例です。2019年は、コロナウイルス禍に加えてアメリカでの人種問題が大きなニュースであったため、単一の「言葉」に絞り切れないという判断から、「socialdistancing」 「systemic racism」「black lives matter」といった表現を含めた複数の言葉が「word of the year」だとしていたのですが、今年は「vaxxed」「vaccine」も含めたコロナ禍用語の代表として「vax」を選んだとこの。そして、あと3週間で新しい年を迎えるわけですが、来年こそコロナ禍に関連した表現が「word of the year」に選ばれることのないよう願いたいものです。

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(12/10/2021)

 

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