精霊馬|べっぴん塾

第三十五回

精霊馬

子どもたちと「精霊馬」を作りました。夏野菜のキュウリと茄子に割り箸で足を付けた精霊馬を見て、子どもたちは、「シマウマ!」「カバ!」「クマ!」等と想像を膨らませて答えてくれましたが、正解は馬と牛。なぜキュウリで馬を作り、茄子で牛を作るのでしょうか。それは亡くなった人とつながり続ける日本人の死生観に由来しています。

日本の子どもたちの夏休みはだいたい7月末頃から8月中ですが、社会人の夏休みは、8月半ばの「盆休み」がそれに当たります。「お盆」とは、祖先の霊を祀る一連の行事のことで、「お盆」の語源は、サンスクリット語の「ullambana」を音写した「盂蘭盆」の略と言われています。もとは古代中国において苦しむ亡者を救う為に行われた仏教行事(盂蘭盆会)ですが、日本に伝来し、祖先の霊魂(精霊)をお祀りする行事として初秋に行われていた「魂祭り」と習合して現在の「お盆」となったと考えられています。8月13日から16日を盆休みとする地域が多いのですが、もとは旧暦の7月の行事でしたから、新暦においてもそのまま7月とする地域もあります。
さて、さきほどの「精霊馬」。精霊がこの世とあの世を行き来するときに使う乗り物のことで、茄子の牛は馬ではないのですが、そちらも「精霊馬」と言います。「足が速い(キュウリの)馬に乗って、少しでも早くこの世に帰ってきてね」、あの世に戻る時は「歩くのが遅い(茄子の)牛に乗って、ゆっくり戻ってね」と、ご先祖様への想いが込められています。

精霊を送る時は、あの世への道を明るく照らすように火を灯す習わしが全国各地にあり、京都の五山の送り火もその一つです。他にも長崎の精霊流し、青森のねぶたも祖霊を送る役割があると伝わっています。

昔から日本では「ご先祖様に恥じない生き方を」とよく言われましたが、亡くなってもなお習わしの中に生きて、私たちに美しい生き方を選択させ続けてくださっています。

幼稚園での夏の行事の講座にて、子どもたちと精霊馬をつくりました。

(8/6/2025)


筆者・森 日和

禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com

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