サッカーや言語、文化、 何もかもが違う場所で 新たな挑戦

山根視来  Miki Yamane     


プロサッカー選手 ロサンゼルス・ギャラクシー所属

様々な人種や国籍、文化やアイデンティティを持つ選手がプレーするアメリカのプロスポーツ。サッカープロリーグ「メジャーリーグサッカー(MLS)」も世界で最も多様性に富んだリーグの一つだ。1993年に創設、開幕して約30年が経つMLSが近年人気を高めファン層を拡大していることに関しても、海外からの選手を多く受け入れていることが要因だといえる。

1995年のチーム創設以来、MLSカップ優勝最多、MLS首位最多を誇る全米屈指のチーム「ロサンゼルス・ギャラクシー」も南米やヨーロッパからなどバラエティに富んだ選手が所属するチームであり、昨年は日本から吉田麻也選手が加入。そして今年は、山根視来選手が移籍。この2022ワールドカップ日本代表の両名が加わり、チームの盛り上がりに花を添えている。

|| 今季よりMLSに挑戦

今季よりJ1川崎フロンターレからロサンゼルス・ギャラクシーに2026年夏までの3年契約で移籍した山根選手。1月に渡米し、新しいユニホーム姿で臨んだ入団会見では「言語やサッカー、文化、何もかもが違う場所で、自分がどれだけやれるのかを知りたかった」と意欲をみせた。新天地のグレッグ・ヴァニー監督は「ミキの日本での経歴を見てわかるように、キャリアが長いだけでなく、たくさんのトロフィーを獲得していることがわかる。彼はフィールドでのプレー経験が豊富なだけでなく、成功するために何が必要かを理解している。彼がチームに加わること、また異文化を持つ彼がここで多くの新しいことを学ぶ意欲を持っていることが、チームの力になるはずだ」と大きな期待を示した。30歳で初の海外サッカーへの挑戦を決意した山根選手に、アメリカのフィールドや日常生活で感じたことなどを聞いた。

ロサンゼルス・ギャラクシーは現在(6/20時点)MLSウエスタンカンファレンスの3位に位置する。「特に5月は引き分けが多かったので、もっと上を狙えるはずだとチームのみんなが感じていると思います。試合中に『こうしたほうがいいんじゃないかな』と思うことがたびたびあります。サッカーは一人ではできない。チーム全体で良いサッカーができるように僕自身が感じたことを積極的にフィールドでも伝えられるようにしていきたい」。現在首位ではないので、自身のチームへの貢献度を点数にすると60点くらいだと厳しく自己評価するが、5月25日のヒューストン・ダイナモ戦では初アシストを成功させ、勝利に導いている。

■5/25のヒューストン・ダイナモ戦での初アシストの後、ハチマキを巻いて英語で「1stassist! Happy today!」と喜びを伝える映像がインスタグラムにアップされている。

|| 合宿で触れたアメリカ文化

プロスポーツ選手が日本から海外へ移籍した時に、よく注目を集めるのが外国人選手のコミュニティにどのように溶け込んでいくかだが、この点についてはスプリングトレーニングが役に立ったようだ。「日本のトレーニング合宿だと、午前と午後に練習して、食事をとって、休憩して練習試合をするのが日々のスケジュールなんですけど、アメリカのリーグに来たら、夕食後にいろんなエンターテイメントが用意されているんです。スタッフの方がクイズ大会やマジックショーを企画してくれたり、みんなの前で歌を歌ったり。そういったイベントには臆さず積極的に参加しました。フィールドの外でみんなと交流できたのはすごくありがたかったですね。プレシーズンマッチについても、お客さんをたくさんスタジアムに入れてとことん盛り上げるところは、なんでも楽しみたいというアメリカの国民性ならではと思いました」

ロサンゼルス・ギャラクシーに対して持っていたイメージについてこう語る。「僕にとって、ロサンゼルス・ギャラクシーは、ベッカムやイブラヒモヴィッチといった偉大な選手が在籍していた、リーグを語るには欠かせない存在のチームです。今現在も世界トップレベルの選手たちが活躍しています。彼らと一緒にプレーできるのはすごく光栄なこと。この恵まれた環境の中でも、自分は自分。個人としての力を高めて価値を示していきたいと思っています」

|| 大学卒業後、J1湘南ベルマーレへ

神奈川県出身。幼い頃に兄や近所のお兄ちゃんがサッカーをしているのを見て、自分も始めた。ワールドカップをみて、世界で戦うプレーヤーたちに夢を抱いた。特には、圧倒的な速さのドリブルで突き進み次々とゴールを決めていく元ブラジル代表のロナウドの姿がかっこよくて憧れたという。小学校低学年からジュニアサッカーチームで活動し、高校はサッカーの盛んな茨城県の高校に進学したが2年生の時に東日本大震災に遭った。「被災した直後は体育館での生活を余儀なくされましたし、学校が被災してサッカーができる状態ではありませんでした。すぐに神奈川の実家に戻り、近くにある桐蔭横浜大学のサッカー部に連絡して一緒に練習をさせてもらうことができました。より高いレベルの環境でトレーニングを続けることができたのは幸いでした」

同大学に進学し4年間活躍の後、2016年にJ1湘南ベルマーレへ入団。プロデビューを果たしたものの1年目はリーグ戦出場の機会は与えられなかった。「試合に出られない悔しさや、プロとして生き残りたいという気持ちが大きく膨らんでいきました。その時に当時ベルマーレの監督だった曺貴裁さんに指導されたことが僕の大きな転機になった。といっても監督から特別な練習法とか、こうすればうまくいくんじゃない?という具体的な提案があったわけじゃないんです。監督はいつも僕の本質の部分を突いてくるんですが、それは一体どういう意味なのかと、突き詰めて考えながらプレーしました。それにより、自分がサッカーでそれまで培ってきたものを一度ぶち壊され、サッカーでお金を稼ぐのはこういうことなんだぞ、を一から叩きこまれたことが自分のサッカー選手としての心構えやプレースタイルの基盤を築いてくれました」

|| 湘南ベルマーレ ➡ 川崎フロンターレ

それから4年をかけてJ1のトップで戦う力を育んでいき2020年、オファーを受けて川崎フロンターレに移籍。同チームが優れたチームであることは知っていたが、想定を上回るレベルの高さに入団当初はしんどい思いをしたという。「フロンターレの特徴は、細やかにパスを繋いで敵の守備を崩していく『パスサッカー』です。ところが僕は、そういうのがすごく苦手で…。なんせ、とにかくいっぱい走って本能でプレーしていくのが自分のプレースタイルだったのでまるで真逆。周りの選手も日本代表に選ばれるすごい選手ばかり。初めの数ヶ月はメンタル的にもきつかった。でもじきに、自分の特徴を出すことがチームの助けになっていき、チームのみんなも僕の特徴を最大限に生かしてくれる関係性を作ることができた。それが最も良かったことだと思います」

川崎フロンターレに在籍していた2020年、2021年、2022年の3年連続でJリーグベストイレブンに選出。さらに2021年に韓国代表との国際親善試合と、2022 FIFAワールドカップカタール大会の日本代表選手に選ばれた。子供の頃から夢見ていたワールドカップだけに日本代表入りには喜びもひとしお。「サッカー=日本代表=ワールドカップその三つがずっと僕にとってサッカーの世界そのものでした。だから、日本代表の八咫烏(ヤタガラス)のエンブレムを着けて世界の舞台に立てる権利を手にした瞬間は飛び上がるほど嬉しかったですね」

強豪ドイツ、スペインに逆転勝利するなど、森保一監督率いるSAMURAI BLUEは日本や世界にたくさんの感動と興奮を届けた。「ワールドカップでは、フィールドに出るまでは緊張や興奮がありましたが、試合中は自分たちのプレーに一喜一憂することなく落ち着いて戦うことができた。カタールでは一瞬一瞬、一日一日を噛みしめながら大事に過ごそうと思っていたので、その期間全体が僕にとってとてつもなく特別な経験になりました」

|| MLSは壁を越えるための挑戦の場

日本代表としてJリーグの外に出て戦ったことにより、これから克服するべき課題もみえてきた。MLSは、その壁を越えていくための挑戦の場となる。「日本では経験できないようなプレーの難しさに挑める」のが、MLSでプレーすることの大きな魅力だと話す。「MLSではフィジカル面がすごく重要視される印象です。平均的にみんな足が速い、身体が大きい、力も強い。日本人とは持って生まれた体格の差がありますが、中には驚愕するほど大きな選手もいます。それが衝撃でもありますし、そこに挑戦するためにこのリーグに来たので楽しくもあります」。昨年よりリオネル・メッシが所属するインテル・マイアミとの対戦もあった。「メッシは目線や身体の向きを使って、フィールドの逆サイドでプレーしている僕にまでもプレッシャーをかけてくるんです。すごい威圧感と存在感。本当に怖い選手だなと思いました」

|| 今季の目標は「優勝」と「ホワイトハウス」

MLSでの今季の目標は、チームの優勝だ。また、MLSカップで優勝した全米一のチームに贈られるのは優勝カップだけではない。ホワイトハウスに招かれ表彰式が行われるのが恒例の行事となっている。「ワールドカップに出場した際は、日本で首相官邸を訪れる機会がありました。アメリカでは優勝してぜひホワイトハウスに行きたい」と胸を膨らませ笑顔をみせる。

英語も目下勉強中で、試合やトレーニング後に英語のレッスンが待っている。チームメイトのジョン・マッカーシーやミゲル・ベリーはよくグランドでひとこと英会話教室をやってくれる愉快な仲間でもある。「日本から出て生活して語学を学ぶことで、日本にこだわらず、地球の自分の好きな場所に住めたらいいなと視野も広がりました。自分と違う国やカルチャーの人たちと触れ合いコミュニケーションをとることで、いろんな考え方があることをあらためて体感することができました」

MLSレギュラーシーズンは10月半ばまで。もしかすると、英語でインタビューに答える山根選手が今季中に見られるかもしれない。そんな密かな期待を抱いてシーズン後半戦の行方に注目していきたい。

|| Miki’s LA LIFE

LAではオフタイムに何をしていますか。
家族でビーチまでドライブしたりカフェでのんびりしたりしています。

■LAで気に入っているのは、どんなところですか。
大好きな街。すべて気に入っています。

LAで行ってみたいところはありますか。
アイスホッケーを観に行きたい。1対1の乱闘がルールで許されるのがスゴい!ゲーム自体も面白そう。

■LAに来て変わったことは何ですか。
家族との時間が増えたこと。夕食後も家族みんなでテーブルを囲んでフルーツを食べたり、英語を勉強したり。そんな時間がいいなと思います。


山根 視来 Miki Yamane
MLSロサンゼルス・ギャラクシー所属、ポジション:DF、背番号2
神奈川県出身、東京ヴェルディジュニアユース、ウィザス高校(現・第一学院高等学校)、桐蔭横浜大学を経て、2016年に湘南ベルマーレ入団、2020年に川崎フロンターレに移籍。2020年、2021年、2022年3年連続でJリーグベストイレブンに選出。2021年韓国代表との国際親善試合で、日本代表にデビュー。2022FIFAワールドカップカタール大会の日本代表。2024年よりMLSロサンゼルス・ギャラクシーに所属。
インスタグラム@yamanemiki13

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