同級生上野剛君は侮れない

 私は学生時代の仲間と会うのが好きだ。小学校、中学、高校、大学、大学院の仲間とそれぞれのグループLINEで近況報告をし合っている。小学校の仲間には女性がいるので、孫の話や持病の話などが多くなる。東京の築地小学校だったので、築地本願寺での夏の盆踊り大会再開が最近の話題だ。大学院の仲間からは、社会の各業界で現役で活躍する様子を聞けるためとても刺激になる。

そんな中私が1番楽しんでいるのは中学、高校が一緒の早稲田実業高校の仲間とのやり取りだ。みんな寂しがり屋なのかいつもLINEで盛り上がっている。金のない奴、ある奴、奥さん亡くした、リタイヤした話など…結果、同窓会を年に2回程開催することになる。今回は深川富岡八幡宮近くにある、仲間が経営する下町料理の店「一穂」で会い終結大騒ぎとなった。

 毎回絶対変わらない主役がいる。その名は元柔道部上野剛。高校時代はその達人ぶりに「早実に上野あり」と恐れられた伝説柔道家だったのです。各大学から引く手あまたの中、青山学院大学を選択。形だけでも入学試験をと大学側から言われて受験したところ、不覚にも名前を書くのを忘れ敢え無く不合格の伝説を残す。その後世田谷区三軒茶屋駅前の広大な敷地にレストラン「コンコルド」を経営していたが、駅前の再開発によって優雅な人生がスタートした。現在は晩婚で結ばれた奥様と家賃収入と柄に合わないスカッシュで毎日を過ごしている。

 しかし容姿がドンドン変化しているのだ。仲間は「上野!少しオシャレして来いよ、金あるんだから。」と言うのだが、何故か私はこの、いつも酔っぱらった様な顔つきと雰囲気が好きなのだ!極度の方向音痴で毎回待ち合わせの場所に来れない。同窓会後、颯爽と帰る仲間達に反して、道が分からず帰れない上野!

しかし憎めない男なのだ。同窓会での主役の座は不動。これってなに?もしかしたら実存する「フーテンの寅さん」なのかも。でも寅さんほど人生を語るわけでもなく、女好きでもない。愚痴も言わず、難しい事も言わず、話していると楽しい。何だか羨ましくなってくる。そうなんです、演出家魂をそそる逸材なのだ。いつかドキュメンタリー・バラエティー映画『Let’s Go!上野爺さん』を制作したい。誰か制作費出してくれないかな。企画通らなそうだけど!こうなったら上野を酒で酔わせて契約書を作ってしまおうか。クランクインしても、恐らく本人は何が始まったか全く判らないまま撮影が進むんだろうな。

 同級生上野剛の魅力を改めて考えてみた。「自らを良く見せようと全く思わない」これこそ最高の人間性ではないか。映画作りたい。

 

 

■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。

 

 

 

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