夢実現へ向け日系一世に「近道のチケットない」(6/28/2019)

漫画家

井上 三太|Santa Inoue

 「成功への近道のチケットはない」。漫画家・井上三太さんが実感していることだ。昨年末、50歳手前で「ハリウッドで映画を作るため」にLAへ移住した。架空都市〝トーキョー〟に生きる若者を描いた代表作『TOKYOTRIBE』シリーズはストリートカルチャーとなり、ファッションや音楽に影響を与え、舞台、アニメおよび実写映画化された。世間から見れば〝成功〟だ。しかし、家族を説得し事務所を整理し、夢実現のため米国へやってきた。15年前、LAを訪れた際にコミックショップの店主と親しくなり「アメリカで映画を作りたい」と話すと「実現するにはここに住まなきゃダメだ」と言われた。そのことがずっと頭にあったが、海外移住のは大きな決断だ。だが、ビジョンが見えた。「科学的な根拠はない。でも明確に、アメリカで成功するというビジョンが見えた。これは勝負するしかないなと」。


 米国で自分の漫画でアニメーション映画を作る。それが目標だ。「『TOKYO TRIBE』のタイトルで米国でアニメを作りたい。本気でやりたいんですよ。生半可な気持ちでは来てない。東京と香港とLAがミックスしたような街でちょっと近未来のSFにして、ストーリーは新しいもので。米国はストリートカルチャーやヒップホップの本場だけど、ヒップホップのアニメが存在しない。その2つを掛け合わせられれば商業的にもすごいものが作れる」と熱く語る。しかしその調合が難しい。「ヒップホップとの化学調合ができるアニメを作る人がいない。スケボーやドラッグが出てきたり、洋服の丈であったり、キャップだったり。一朝一夕でわかる問題じゃない。神がおれに与えてくれた才能というか、それを作れるのはおれしかいないと思ってる。それを証明したい」。


 LAへやってきてすぐ、不動産屋に言われた事がある。「三太さんもこれから日系一世になるんですよ」。ハッとした。戦後、米国に残ってリトルトーキョーを作ったような元祖日系人たちの開拓者魂を感じた。「自分にもそういう開拓したいっていう気持ちがあるのかもしれない」。現在は移住から半年が経ち、日本の漫画雑誌での連載をLAから描く日々を送る。そのためにPCで漫画を描く技術も新たに学んだ。15年かかったが、移住という夢は実現した。しかし、映画の具体的な話は進んでいない。自分の漫画が世界一だとは思っていない。しかし、オンリーワンだとは思っている。この国で自分のニーズがあると信じている。自分が描ける漫画は米国人には作れないものであり、それを自分が生み出しているという自負がある。焦ってはいない。「すぐにはいいことは起きないんですよ。すぐに仕事がバンバン決まるということは。成功の裏には人一倍の努力がある。そんなうまい抜け道はない気がするんですよね」。一つ夢を実現したあとには、次のステップへ進むための努力が必要。それをわかっているから、今をがんばれる。

「ハリウッドで自分の漫画で映画を作る」という夢実現のため、昨年末LAへ移住した井上三太さん。「成功への近道のチケットはない」と話す。8月5~8日に開催される「アニメエキスポ2018」にも参加する。ブース番号はANX15。
詳細はwww.anime-expo.org/guest/santa-inoue/

LAでの生活を描いた漫画『三太のLA LIFE Vol.1 50歳のマンガ家が家族とLAに引っ越した話』はオンラインでアップしている。代表作『TOKYO TRIBE』とはガラリと変わった作風だ。詳細はsanta.santa.co.jp/

日系一世として開拓していく。そんな思いを胸に、LAで漫画を描く日々を送っている。

 

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