この歳になると「そろそろ免許証返上しようかな」の声を仲間から聞く。申し訳ないのだがその気分には全くならない。それより元気なうちに、何台買ってやろうか虎視眈々と狙っている。もちろん安全運転で楽しむ事は言うまでもない。
そんな訳でまた買ってしまった! 日本では街で見掛ける事もほぼ無い、東京でも現存が2~3台しか確認されていない車で、車好きでも殆どの人が知らない、少し前にこのコラムで私が購入を迷っていたイギリスのモーリス・マイナー・トラベラーです。
実は英国人なら誰だも知っている大衆車。発売は1948年といわれ1970年まで生産された。基本デザインはセダン型タイプ、派生型としてピックアップ、バンタイプと多種に渡っている。 購入したトラベラーはワゴンタイプで、イギリスならではのユニークな構造になっており、ボディ後部外側が本物の木の枠で出来ている。その木枠はデザインで付いている訳ではなくボディ剛性にとって必要不可欠なパーツ。家に置き換えるとまさに大黒柱の役目となる。そこがセールスポイントになっている反面、湿気の多い日本の風土では、油断すると木枠からキノコが生え出す事もある。梅雨の時期、室内保管が絶対条件。
それにしても車からキノコが生えるとは面白過ぎる。まるでグリム童話の世界。 モーリス・マイナーの後継車として誕生したのが、世界中で大人気のモーリス・ミニクーパーなのだ。同じ木枠のミニ・トラベラーも生産され、知名度もあり、中古車市場でも高額で取引されている。
それに引き換え先輩モーリスは野暮ったいスタイルからか何故か人気が無い。しかし私は断然モーリス・マイナー・トラベラー派。そんな訳で値段も手頃となっている。
クーラーの無いこの車が一番輝く季節は、間違いなくクリスマスシーズン。イメージは膨ら。、英国生まれなので助手席にはPADDINGTON BEARを座らせる事にしよう。荷台部分の内装を前オーナーが嬉しいことに赤のタータンチェック柄の生地で仕上げている。その空間に丸太小屋を作ってみたい。煙突は欠かせない。トナカイも2頭置いてサンタクロースのソリを引っ張ってもらおう。得意な妄想は膨らむばかり。
この原稿を書いている東京の気温は39度。この炎天下で早くもクリスマスイブのイメージが湧くなんて我ながらどうかしている。それにしても妄想を抱かせるモーリスは素晴らしい。東京は10月下旬まで夏日が続くらしい。四季が無くなっていきなり冬が来る予報もある。願わくば12月24日雪が舞ってくれますように。銀世界の中トラベラーと走りたい。
■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。

