

筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信022
子供のアメリカ生活
成功のカギは「チームに入ること」
20年近く前のことですが、テネシー州の大学院を卒業して南カリフォルニアの砂漠にあるビクタービルに引っ越し、地元紙「デイリープレス」で報道記者として働き始めた時のことを今でもよく覚えています。
最初に担当したのは「司法」。民事と刑事の違い、検察官が何をしているかなどという基礎知識すら全くなかったのに「地元の裁判所に行って毎日、記事を2本書いてこい」と初日から編集長に命じられました。さらには、ビジネス担当も任され、とりあえず地元の名士が集まる会合に行きまくって取材。街には日本人などほとんどおらず、ゼロから人間関係を築き、信頼を得て、日々新しいテーマを学ぶ必要がありました。
それでも、どうにかアメリカ人の同僚たちに混じって、プロの記者としてやってこられた。その原点をたどれば、小学生の頃に親の仕事で過ごした2年間のアメリカ生活にたどり着きます。特に、英語がほとんど話せなかった当時、親がやらせてくれた野球やバスケットボールといった習い事が、言葉の壁を越える勇気をくれました。努力さえすれば、アメリカでもやっていける。そんな成功体験が、今の自分の支えになっています。
2月21日号のコラムでは、駐在中のお子さんに「アメリカでしかできない経験」をさせてあげてほしいと書きました。その具体的な方法の一つが、まさに「習い事」です。とくにスポーツはおすすめです。
体力向上はもちろん、忍耐力・協調性・やり抜く力といった「非認知能力」も育まれます。実際、私の記者としてのキャリアを支えてくれたのは、英語力や文章力以上にこうした力だったと思います。子どもの頃にスポーツをしていた人は、将来の年収が高くなるという研究もあります。
また、スポーツを通じて、言葉を超えたつながりが生まれます。私自身も、アメリカでリトルリーグのチームに入って、英語がわからなくても仲間として受け入れられ、友達ができました。そこから生まれた自信は、今でも自分の中に生きています。異国の地でチームの一員として受け入れられ、時にはリーダーシップを発揮する経験は、お子さんにとって一生の財産になるはずです。
私の8歳の息子も、現地のサッカーと野球のクラブチームに所属しています。週末にはチームの仲間と一緒に遠征してトーナメントに参加したり、観客席から大勢の親御さんの視線が注がれる中でプレーしたりする機会を得ています。この年齢ではなかなか経験できないような「大舞台」を通じて、少しずつ自信を身につけていってくれているのを感じます。そして何より、そこでできた友達との友情が、息子の日常を支え、楽しみの源にもなっています。
もちろん、スポーツに限らず、音楽や演劇などの活動でも同じような効果が期待できます。日本語で活動するグループに安心感があるのも理解できますが、ぜひ、英語環境での習い事にもチャレンジさせてあげてみてください。現地の子どもたちと触れ合うことで、自然と友達ができ、生活がぐっと楽しくなります。親御さん同士のつながりも増えるはずです。
補習校や塾も大切ですが、「今しかできないこと」を優先してみるのも一つの選択肢です。アメリカでの経験は、帰国後にもきっと生きてくるはずです。

(3/26/2025)