市民が法律を決める!カリフォルニアの 住民投票に注目しよう

筆者・志村 朋哉

南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。

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市民が法律を決める!カリフォルニアの
住民投票に注目しよう

ドナルド・トランプ氏と共和党が大勝利を収めた今回の選挙ですが、連邦政府や州、郡、市町村などの政治家を選ぶ以外にも、大事な投票があったことをご存じでしょうか?

州の住民が自分たちの手で法律を決める住民投票(ballot propositions)です。日本でも、政治家が作った一部の法案について、市民の意思を確認するための住民投票が行われることはあります。しかし、アメリカの半数ほどの州では、市民にも法律を作ったり、変えたり、廃止したりする権利が認められているのです。

特にカリフォルニアは住民投票が盛んな州です。過去には、不動産にかかる税金を大幅に減らしたり、大麻の娯楽使用を合法化したりする法律などが成立し、私たちの生活に大きな影響を与えてきました。

今回の選挙でも、州議会が発議したり、住民が発案して一定数以上の有権者から署名(直近の州知事選の全票数の5%)を集めたりした10の案件が住民投票にかけられました。いくつか主なものを紹介しましょう。

・教育資金(Prop.2):学校やコミュニティカレッジの施設を建設、修繕、改築するための100億ドルの債券発行が成立しました。州と地方が費用を分担する形で配分されます。低所得地域や、英語学習者や里親児童の多い学区へは、州がより多くの費用を負担します。

・環境プロジェクト(Prop.4):気候変動による山火事、洪水、干ばつ対策のための100億ドルの債券発行が成立しました。低所得地域や気候変動の影響を受けやすい地域が優先され、19億ドルは飲料水の品質改善に使われます。

・強制労働の廃止(Prop.6):刑務所内で、受刑者に対して調理や清掃、建設、消防などの労働を強制させる慣行を廃止する提案は否決されました。賛成派は、刑務所内の強制労働は奴隷制の名残であり、特に黒人など有色人種に不平等に影響を及ぼしていると主張していました。

・最低賃金(Prop.32):州の最低賃金を時給16ドルから18ドルに引き上げる提案は、執筆時点で反対が僅差で上回っています。州内の40近い市では、既に州の基準よりも高い最低賃金を設定しているので、地域によって影響は異なります。反対派は、会社が新しい人を雇うのを渋ったり、解雇したりする可能性があると主張しています。

・犯罪罰則の強化(Prop.36):軽犯罪として分類されている窃盗や薬物関連の犯罪を重罪に再分類する提案が約7:3の大差で成立しました。都市部で小売店での窃盗や車上荒らしなどが増えたことへの不満の表れです。被害額950ドル以下の万引き事件が、5年間で28%増加したとの調査もあります。

住民投票によって、市民は政治家に頼らずに問題解決ができます。大麻の合法化や税制改革などのセンシティブなトピックだと、議会が反発を恐れて取り組みを先延ばしにすることもあります。そうしたトピックについても住民の意思を直接、確認できます。また、日常生活に影響を与えるような問題について自分たちの意思が問われることで、市民の政治参加への意識も高まります。

デメリットもあります。案件が多すぎたり、複雑だったりする場合、有権者がその内容や影響を十分に理解しないまま投票してしまうリスクがあります。また、住民投票に必要な署名を集めたり、案件を宣伝したりするにはお金がかかるため、資金力のある大企業や政治グループが有利になります。

いずれにせよ、カリフォルニアの住民投票は、たとえ選挙権のない人でも、その影響を大きく受けますし、日本にはない直接民主制を肌で感じられる貴重な機会です。これからの選挙でも注目してみてください。

(11/20/2024)

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