筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信011
悲しいニュースに振り回されないための
思考術
2025年が幕を開けました。私は年末年始を日本で過ごしましたが、久しぶりに訪れると、色々と感じることがあります。
のんびり広々とした南カリフォルニアに慣れてしまうと、せかせかして密集した東京では刺激とストレスを感じます。東京のぎゅうぎゅう詰めの電車に乗っていると、「インフルエンザが蔓延して、学級閉鎖になるのも無理はない」と感じずにはいられません。なのに車内はロサンゼルスのメトロに比べると実に静かです。
街中やテレビには、LA以上に大谷翔平選手の顔で溢れています。インターネットが広まって人々の興味が分散した時代に、長嶋茂雄さんのような国民的英雄が生まれるとは、想像していませんでした。
紅白歌合戦も見ましたが、相変わらず日本らしさが詰まっていました。参加者全員が空気を読むことに撤し、当たり障りのないコメントを発しようと必死。子供からお年寄りまでみんなが安全に笑えるように考えられたネタは、もちろん誰にも刺さりません。毒舌キャラで人気になったはずの有吉弘行さんをNHKが司会に起用した理由は謎でしかありません。
日本の良さをしみじみと感じる瞬間もありました。東京やその近郊であれば、歩きや電車やバス、タクシーでどこへでも行ける。そこかしこに美味しいレストランがあり、莫大な予算と労力を注ぎ込んで食開発をするコンビニでの買い食いは、もはや至福の時間です。外食も、LA民からすれば驚くほど安い。車に頼らない生活をしていると、自然と歩く距離が増えるため、ダイエットする必要もありません。
世界は良くなっている
年末のニュース振り返り番組などを見ていて、暗い気持ちになった人もいるかもしれません。
テレビやSNSからは、物価高騰、政治の分断、戦争など暗い情報が次々と流れてきます。ここ最近だけでも、ニューオーリンズでの群衆への車突入事件やダウンタウンLAでの銃撃事件など、悲しいニュースが飛び交いました。一見、世界はどんどん悪い方向に向かっているように感じるかもしれません。
ですが、もっと広い視点で見ると、実は世界は良い方向に進んでいます。マスコミは衝撃的な出来事を報じがちで、特にテレビは視聴率を稼ぐために、悪いニュースに注目してトップで扱います。確かに広い世界では、どこかで悲惨な出来事が毎日起きているものです。それでも、全体的な治安や生活の質は向上しています。犯罪率は、短期的には浮き沈みがありますが、10年、20年単位で見ると確実に減少しています。南カリフォルニアで15年以上、記者として働いてきた経験から言えるのは、ドラマのない平凡な日が大半だということです。
もちろん、実際に被害に遭った方々にとっては、統計やデータではすまされない苦しみがあります。しかし、誤った認識が広まり、必要以上にネガティブな空気が漂うのは精神的にも良くありません。「何をしても世の中は変わらない」と努力を諦めてしまう人が増える可能性もあります。記者として感じるのは、俯瞰的な視点を持つことの大切さです。
東京の変わりゆく景色を小学生の息子と眺めながら、私は未来への希望を感じました。吉田茂元首相がかつてこう語ったように、「人間は進歩する」ものです。未来には、今よりも素晴らしい世界が待っていると信じています。
2025年も、「世界は良くなっていく」という前向きな気持ちで、どうぞ素晴らしい一年をお過ごしください。
(1/8/2025)