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アメリカ101 第173回
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昨今の物価上昇率が146,101%(誤植ではありません。14万6101%)というハイパーインフレという経済破綻の真っ最中にあり、慢性的な政情不安から抜け出せずにいる南米の一国であるベネズエラから、「掃きだめの鶴」のように、クラシック音楽を演奏する世界的なレベルのオーケストラである「シモン・ボリバル・オーケストラ」が生まれ、そして、そこで育った世界有数の指揮者として、現在は世界を股にかけて活躍する、ロサンゼルス・フィルハーモニック管弦楽団(通称LAフィル)の現音楽監督グスターボ・ドゥダメル(42)にまつわる話題です。
ドゥダメルは2009年にLAフィルの指揮者・音楽監督に就任、アメリカのオーケストラとしたB級とみなされていた楽団を、自他とも認める米国内ならず世界のトップクラスの力量のあるグループに育て上げた功績者。今月7日に、アメリカ最古で、最も知名度も高いオーケストラであるニューヨーク・フィルハーモニックの次期音楽監督に2026年に就任する旨が発表となりました。
ドゥダメルがLAフィルに招かれたのは、街頭で麻薬の密売や強盗などの犯罪に加担していたストリートチルドレンの救済や厚生をも視野に入れたベネズエラでの特異な、ピラミッド型のクラシック音楽家養成システムである「エル・システマ」の最優等生として、弱冠17歳で「シモン・ボリバル」の音楽監督に就任、クラシック音楽の本場であるヨーロッパ各地での重なる演奏旅行で名演
奏を披露し、新進気鋭の指揮者としての名声を確立してきたという背景があるます。
「エル・システマ」は、ベネズエラの政治家で経済学者だったホセ・アントニオ・アブレウなどが音頭をとって結成され、1975年以来、ベネズエラ各地で数多くの青少年オーケストラを運営、放課後の児童・生徒を集めてクラシック音楽の素晴らしさ普及させるのが目的。その数は現在は200以上を数え、その頂点にあるのがシモン・ボリバル・オーケストラで、毎年開催されるオーストリ
アのザルツブルク音楽祭や、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールという収容人数が5000人を超える会場で毎年夏に開催されるBBCプロムズ(BBCProms)といったヨーロッパの恒例イベントに繰り返し招待を受けるというほどの高い評価を得ています。
ドゥダメルはLAフィルの音楽監督に就任以来、それまでの定期演奏会では演奏されることが少なかった中南米諸国出身の作曲家の手になるクラシック音楽を積極的に取り上げ、ロサンゼルス都市圏で人口の3分の1を超える最大のエスニック集団を意識した曲目編成を進めてきました。その結果、LAフィルは新たな観客の呼び込むに成功し、LAフィルとしては、本拠であるディズニー・コンサートホールに加えて、夏季のハリウッドボウルでの公演もあって、演奏会収入は、新型コロナウイルス感染拡大以前には年間約1億8700万ドルで、観客減少が続くニューヨーク・フィルの2・5倍にも達するほどで、音楽監督として楽団経営にも関与する手腕を発揮してきました。そのドゥダメルの退任は3年先の2026年で、それまでには代わりの音楽監督が決まるわけですが、その足跡を埋めるのは後任指揮者にとって予想以上の大仕事となりそうです。
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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(2/15/2023)