アジア系学生は人種差別の対象に? 難関大学への入学志願

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アメリカ101 第160回

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日系人を含めたアジア系アメリカ人の間で、「難関大学への入学志願で、アジア系学生は人種差別の対象となっている」という“神話”があります。学業成績やSATスコアでトップクラスにもかかわらず、ハーバードやイエール、スタンフォードといった有名大学への入学が難しいのは、アジア系が人種全体として押し並べて優秀な学生が多いため、これらの大学では、入学選考過程で“敷居”を高くして、アジア系学生の合格者数を低く抑えているというわけです。

そして、今回連邦最高裁判所で10月31日に、このような大学の入学選考方式で学生の多様性を確保するために、人種(具体的には黒人などのマイノリティ)を重視する結果、アジア系アメリカ人が事実上逆差別の対象となっているとする2件の訴訟で、5時間におよぶ口頭弁論が行われました。
訴訟を提起したのは、保守派の法曹活動家として知られるエドワード・ブルームが立ち上げた「公正な大学入学選考を求める学生たち」(Students for Fair Admissions=SFFA)という非営利団体。ハーバード大学とノースカロライナ州立大学(UNC)チャペルヒル校を相手取って起こしたもので、ハーバード大学についてはアジア系アメリカ人、UNCについてはアジア系アメリカ人および白人に対する選考過程が人種差別や人種別を重視したものであり、公民権法や国民の平等な権利を保障する連邦憲法修正第14条に反するとしています。

アメリカでは、黒人が歴史的にあらゆる面で差別を受けてきた事実を受けて、そのような過去の不正行為を是正するために「アファーマティブアクション」(affirmative action)という措置がとられてきました。日本語では「肯定的措置」「積極的格差是正措置」といった訳語ですが、具体的には連邦政府による調達で被差別集団である黒人企業を優先的に扱うとか、大学入学選考過程で、学業成績やSATスコアが劣っていても、一定の基準で黒人などの人種的マイノリティを優先的に多く入学させるといった措置を指します。今回最高裁で審理が行われているのは、このような措置によって学業成績が優秀なアジア系学生が、その学力だけでは当然“合格”となるはずが、不合格となるのは不当であり、差別的な扱いだとする訴訟をめぐるものです。この訴訟には主として韓国系、中国系、インド系の人々の間で強い支持があります。訴訟では具体的には最高裁が2003年に、学生の多様化のために大学側が人種を考慮した選考を認めた判決(グラッター対ボリン)を覆すよう求めています。

この判決は、「人種を考慮しない選考方式」だけでは学生の多様性が確保できない場合には、人種を選考のひとつの要因として検討することはOKだとしています。これは、アファーマティブアクションが合憲だとする一連の最高裁の判断のひとつで、いずれもリベラル派判事が5対4で多数を占めていた時期の判決です。

しかし、これらの一連の判決があったのは、いずれもドナルド・トランプ大統領就任以前です。同大統領は相次いで空席となった判事3人の後任に、いずれも保守派とみられる人物を指名し、上院での承認を取り付けています。その結果、現在の最高裁判事の色分けは保守派が6対3で優位。 今回の口頭弁論でも、最古参で保守派の急先鋒であるクラレンス・トーマス判事が、大学での学生の多様性自体の必要性に疑問を呈する見解を明らかにするなど、保守派の6判事が相次いで懐疑的な発言を繰り返しており、アファーマティブアクションは“空前の灯”です。

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(11/8/2022)

 

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