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1970年代日本のテレビ業界に一大旋風を巻き起こした、稀代の天才プロデューサー康芳夫さんが、2024年の年末亡くなった。私と康さんとの出会いは1976年、日本中を震撼させたあの人類に最も近い猿〝オリバー君〟来日の時だった。染色体の数が人間46本、チンパンジー48本に対してオリバー君47本の触れ込み。チャーター機での来日時は、タキシード姿に葉巻をくわえ二足で歩く姿に日本中が騒然となった。
オリバー君の横には常に仕掛人康さんが寄り添った。当時の康さんは時代の寵児、富士スピードウエイ「日本インディ」の開催や、石原慎太郎を隊長とする「ネッシー探検隊」など話題を提供し続け、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。そして最終兵器とも言えるオリバー君の登場。日本テレビでの特番のスタッフだった私は初めて康さんとお会いすることに。どこか近寄り難いオーラを出しながらも、当時ADだった私にも気軽に挨拶してくれたのを覚えている。
私の仕事はオリバー君を24時間ガードすること。オリバー君は日本テレビの近くにあったダイヤモンドホテルに宿泊していた。ほとんど寝ずに朝までオリバー君の傍にいないといけない過酷なものだった。オリバー君と二人、朝まで過ごす。彼の行動を観察していると、どう見ても〝猿〟なのだ。バナナを食い散らかす姿、どこにでも用を足す。何が染色体47本だ、完全にチンパンジーじゃないか。テレビ局の「人間の最も近い猿」の宣伝文句とは全く違う。どうなっているんだ。
「お前はだだのチンパンジーだ!」寝不足の苛立ちからオリバー君に手を挙げてしまった。悲しそうな顔で私を見つめている。その時私は我に返った。そうか、悪いのはオリバー君じゃなくて人間なのだ。アフリカコンゴで捕獲され、サーカスの調教師に育てられ、いやらしい思惑によって流れ流れ、康さんに日本に連れて来られてしまった。あの時代確実に康さんは怪しかったが、日本中が怪人康芳夫の魔法に酔いしれたかったのも事実。ちなみに日本テレビ木曜日スペシャル「謎の怪奇人間オリバー」は24.1%の高視聴率だった。
時が過ぎ、あの頃を振り返ると、何とも康さんが懐かしい。世界中が実現すると思っていなかった「アントニオ猪木 対 モハメド・アリ」をやってのけた。実現寸前までいった「トラ 対 空手家山本守」の試合。人類の夢「ヒマラヤ雪男発見」等々、康さんの考えている事はいつも怪しかった。子供達には見せたくない、どこか見世物小屋的な雰囲気が漂う。しかしそこには壮大なロマンがあるのだ。そんな康さんが私は大好きだった。
彼の事だから、今頃天国で、人のいいお金を持っている人達を集めて「クローン人間になって現世に戻ろう」なんて怪しい計画を企てているに決まっている。康芳夫はそうじゃないと。
■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。
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