東京の夏は終わらない

 東京は10月になっても夏日が続き、行きつけの洋服屋さんの店頭の半分はTシャツが占めている。ハロウィンの飾り付けをしているが夏服にまみれ今ひとつ盛り上がりに欠け、店長のぼやきが聞こえてくる。「冬物が全く売れない。例年ならこの時期ダウンジャケット、新作コートが売れるのに、ウインター商品が動かない。」と真顔で心配している。例年12月20日頃から早くも冬物バーゲンセールがスタートする。以前は〝お年玉セール〟と名付けて年が明けてからの特売だったが、最近の傾向として前倒しに。そんな訳でお客さんは2ヶ月後の3~5割引を期待しプロパー商品を買い控えるという悪循環。洋服屋さんに友人が多いので複雑な気持ちだ。鎌倉のサーファーに話を聞くと「海の温度がぬるい」と。日によっては夏と変わらないそうだ。そう言えば水道水もぬるい。例年なら朝の洗顔で秋の到来を感じるものだが。

 季節外れの暑さで食糧品業界にも異変が。スーパーマーケットの隠れた人気者、焼き芋が売れない。入口付近に置かれている焼き芋ケースが寂しそう。閉店まで売れ残る始末。コンビニエンスストアのおでんも注目されてない。真夏と同じ量のアイスクリームが未だ人気者。お陰で私は毎日ガリガリ君を食べる始末になっている。テレビ通販番組では早くも来年のおせち料理を紹介しているがTシャツ姿で眺めても一向に気分が乗らない。売れるのかと心配になってくる。食卓に目を向けると秋の王様秋刀魚がビックリする程小さい。漁獲高は例年通りと言われているが、如何せん痩せっぽちなのだ。普通なら1尾で満足だが、物足りない。もう1尾欲しい。困っているのが定食屋さん。秋刀魚定食への不満が続出している。

 しかし果物に目を向けると秋は確実にやって来ている。柿が美味しい。梨のみずみずしい食感とはまた違う固めの歯ごたえがたまらない。最近主役に踊り出て来たシャインマスカットはパリッと皮ごと食べられて甘みも上品。まだちょっと高いが初物なので食べなくては。そして松茸が秋の味覚にとどめをさす。先ほどから暑いの何だのと言いているが、松茸と聞くだけでよだれが出て来る。松茸の天ぷらや炭火焼、土瓶蒸に舌鼓を打ちたい。松茸ご飯は絶対に外せない。短い秋が終わると冬がやって来る。となると蟹やフグの季節だ。秋刀魚のように瘦せっぽちのフグだけが心配。

 結局何を心配しているのだろう、自分の胃袋のことだけじゃないか。先ずは読書でもしますか。

 

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■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。

 

 

 

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