大谷選手は余韻すら与えてくれない

 改めて言うまでもなく、今期の大谷選手の活躍は想像を絶する凄さだ。今シーズンが始まる前、彼には二つの大きなアクシデントがあった。昨年末に肘の治療の為トミー・ジョン手術を受けたこと。そして、長年苦楽を共にした水原通訳の裏切りの違法賭博事件がおきたこと。連日のマスコミ報道の状況下、私自身内心「満足に野球に打ち込む事が出来るのか。昨シーズン程の成績は望めないのでは。」と…。しかしそれは完全に杞憂に終わった。世界中の野球ファンが息を吞むほどの活躍はとどまるところを知らず、それどころか9月に入ると勢いは加速し、50&50の記録達成後も異次元に進化、覚醒してゆく。

 50&50達成までは、少しはプレッシャーがあるのかと感じていたが、気配すら見せなかった。ファンとしては大谷選手の大記録達成の余韻に浸りたかったのだが、彼はそれすら許さなかった。与えてくれたのは、驚きと感動、何より日本人としての誇り、そして不世出のスーパースター大谷翔平と同時期に生き、目撃したという現実ではないか。

 シーズンが終わり最高の成績を残しても大谷の野球人としての旅は未だ途中。今大谷翔平が何を見つめているのか。現ソフトバンク王貞治球団会長が大谷選手について自らの現役時代を振り返りながら「彼のように幅広く深く考えていなかった。アメリカは初めて当たるピッチャーと勝負する事が多い。だから日本で打つより難しい。技術だけでは無く自分が考えながら相手と勝負しないと良い結果が出ない。」と語っている。ホームランを打つ為に必要なものとして「バットを強く振れる体」と即答している。アメリカンリーグ・エンゼルスからナショナルリーグ・ドジャースに入団した大谷選手の、今シーズン放った本塁打の相手投手の殆どが初対面だった。如何に事前の予想研究をしていたのか。

 来シーズンは投手復帰、31歳となりマウンドに立つ。ファンは最も活躍した投手に贈られる「サイ・ヤング賞」獲得を願っているが、容易なことではない。病み上がりの肘が心配になる。大谷選手はかつて「投手生命は決して長くない。投げられる期間は大切にしたい。」と語り、来シーズン不退転の覚悟で挑む決意が伝わった。心配性の私など吹き飛ばし、再び想像を超える活躍を見せてくれるのか。

 今は、余韻に慕っている時ではない。来期に向けスーパースターが何を考えどう行動するか、一挙手一投足目が離せない。大谷を知る事は自分自身の人生を高める事になるのではないか。

 

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■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。

 

 

 

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