闇の向こうに姿を表す峰々

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Vol.19 ホイットニー山 カリフォルニア州

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ヘッドランプの明かりが数メートル先の足元を照らし出す。トレイルは漆黒の闇の中へと続いている。怖くないと言えば嘘になる。数百メートル先に、かすかに動く明かりが見えた。孤独な山中で、僅かな光を通して感じることの出来る、人の存在。それだけで、恐怖心は和らげぐ。一歩、また一歩と足を前に進める。同じ暗闇でも、夜に向かう闇と、数時間後に夜明けを迎える闇とでは、それを構成するものが僅かに異なる。渓流を流れる水の音が心地く響く。辺りはキンモクセイのような香りで満ちている。周囲を見回すが、それらしいものは見当たらない。気が付くと、先程まで闇の中で存在感を放っていた、周囲の木々が無くなっている。森林限界線を超えたらしい。トレイルの表面も土から岩に変わっている。Tree Line。森林限界線を英語ではこう呼ぶ。この辺りのツリーラインは、3000メートル付近だ。周囲の景色が見えない暗闇。知らず知らずのうちに数百メートル上ったようだ。

 

行く手に目を凝らすと、鋭利な刃物で削いだような峰々が、幻の様に佇んでいるのが見えた。「夜明け」という言葉は、「希望」の同義語として使われることが多い。薄紫から、徐々に赤みを帯びてくる空。何層にも重なった色調の美しさに見入るとともに、孤独な闇を乗り切った安堵感で、暫しそこに立ち尽くす。二次元的なシルエットだった東の山々が、日が昇るにつれて、立体感を伴って、その存在を主張し始める。大自然が作り出す壮大な光の芸術が、そこで繰り広げられている。トレイル上には大小の瓦礫のような花崗岩が散乱し、とても道とは言い難い。時折、前後を確認し、他のハイカーの存在を確かめる。10年前、この辺りでは雪上ハイクだった。辺りを見回すが、雪の形跡は全くない。地球温暖化のせいだろうか?大小の灰色の岩々に覆われた世界。美しいという表現は似付かわしくない。その荒々しい岩肌と散乱する瓦礫は、まるで生真面目な巨人が、コツコツとノミで山を削った、残骸の様だ。

 

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Nick D (ニックディー)

コロンビア、メキシコなど中南米での十数年の生活を経て、2007年よりロサンゼルス在住。100マイルトレイルラン、アイアンマンレースなどチャレンジを見つけては野山を駈けまわる毎日。

「アウトドアを通して人生を豊かに」をモットーにブログや雑誌への寄稿を通して執筆活動中。

http://nick-d.blog.jp


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