コーヒーの香りは魔法の力

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 街を歩くと、ここ数年馴染みのお店が無くなっていることに気づく。鎌倉七里ガ浜ではいつも電池交換や修理でお世話になっていた老夫婦が経営していた時計屋さんが。元気な親父さんがいた酒屋さんも閉店してしまった。東京に向かう途中の鎌倉山近くのパン屋さんも2軒消えている。目黒不動尊の参道にあった、時計屋さんもいつの間にかクリーニング屋の受付カウンターに。カボチャの煮物やひじきを買っていたお惣菜さんも無い。金物店に至っては探すのにひと苦労。

 さらに困っているのは、本好きの私にとって本屋さんの減少だ。神田神保町辺りの本屋街はまだ元気だが、銀座周辺はめっきり減ってしまった。昔は銀座の待ち合わせは時間をつぶせる本屋が定番だった。待ち合わせ難民もいるはず。それぞれのお店によって閉店の原因は違うとは思うが、大型モールやスーパーマーケット、コンビニができた事や経営者の高齢化が影響しているのではないか。

 そんな中一つの光明が、行きつけの大森山王にある中華料理店「京華飯店」の前に3~4年前にオープンした小さな本屋「あんず文庫」。間口2軒にも満たない小さな古本屋なのにお客さんが絶えない。活気がある。興味本位で覗いて見ると『まだ見ぬ文学』『大正ロマンと芸術』『世界中の恋愛映画』『ヨーロッパの古城を訪ねて』『宇宙人は地球に来ていた』『古代ローマは何故滅びた』『今からフランス人になるにはどうすれば』等々読みたくなる本だらけ。時を忘れてしまう。

 さらに店の奥から漂うコーヒーの香りがたまらない。古本の匂いと入り混じった独特なものとなっている。コーヒーと古本の相性がこんなに良いとは。奥のカウンターは若者たちで満席。コーヒーは読書心をそそる。これこそ“コーヒーマジック”ではないか。

 この魔法、時計屋さんでも使えそうだ。鳩時計が時刻を告げる時、コーヒーの香りが鳩を包む。鳩時計が欲しくなるに決まっている。そして金物店の奥にコーヒーカウンターがあったら、絶対に大工道具を買ってDIYで椅子作りに挑戦したくなるに決まっている。最近青山、白金のお洒落な和食屋さんで食事の最後にノンカフェインコーヒーを出すのが流行っている。コーヒーの香りは心を穏やかにしてくれると昔から言われているが、今まで接点が無い職業とコラボすることで素敵な結果が生まれるはず。

 そう言えば13年前、脊髄圧迫骨折で中央区の聖路加病院に緊急入院した時、消毒臭の残る病室で不安な夜を過ごす中、1階に併設されていたスターバックスのコーヒーの香りでどれだけ心救われたか知れない。コーヒーマジックで消えゆくお店に新たな命を与えたい。

 

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■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。

 

 

 

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