
第十七回
二重封筒や筆、日本の手紙に込められた「密かなメッセージ」とは?
日本の手紙には、文字を使わないメッセージが多く含まれています。もちろん手紙の趣旨である用件は文字で文面に書くのですが、相手の幸せを祈るメッセージはこっそりと忍ばせるということもしています。文字にせず、密かに相手の幸せを祈る、日本人らしい奥ゆかしさの美学が手紙にも見ることができます。
この度は手紙に込められた「密かなメッセージ」を解説いたします。
日本のマナーでは、最も格式高い封筒や便せんは真っ白なものとされています。特に目上の方への手紙に使うものは、和封筒に印字されている郵便番号欄も、便せんの罫線もないものを選ぶようにしています。白は「清浄」を表わし、「清らかな物をお渡ししたい」という、相手を大切に思う気持ちが込められています。
そして、封筒は二重封筒を選びます。紙が二重になっていることから、「良きことが幾重にも訪れますように」と、相手のご多幸への祈りが込められています。
その意味を知っていますと、自ずとタブーにも気付くことができます。用件によっては悲しいことをお伝えせねばならない手紙もあります。その場合は、相手に「悲しいことが重なりませんように」と願いを込めて、封筒は一重のものを使用します。
手紙を書く時の筆記具は、できますれば、日本においてもっとも格式が高いとされている筆で。日本では色々なものに格式がありますが、格付けは値段の高さではなく、ご先祖様が「大切にしてほしいこと」が基準となっている場合が多いと感じています。筆の格式が高いのは、筆跡で気持ちを表現することができる為。相手の悲しみへの手紙は、墨に多めの水を加えて文字を滲ませます。言葉では言わずとも、涙で文字が滲んだかのように書くことによって、相手の悲しみに寄り添うことができます。励ましたい時は、筆で文字をダイナミックにお書きになるのはいかがでしょうか。きっと文字の迫力から元気や勇気を受け取ってくださることと思います。

(4/3/2025)

筆者・森 日和
禮のこと教室 主宰 礼法講師
京都女子大学短期大学部卒業後、旅行会社他にてCEO秘書を務めながら、小笠原流礼法宗家本部関西支部に入門。小笠原総領家三十二世直門 源慎斎山本菱知氏に師事し、師範を取得する。2009年より秘書経験をいかし、マナー講師として活動を開始する。
2022年より、廃棄処分から着物を救う為、着物をアップサイクルし、サーキュラーエコノミー事業(資源活用)・外国への和文化発信にも取り組む。
https://www.iyanokoto.com