アメリカ101 第112回
アメリカ最大の都市ニューヨーク市と、「住み続けたい街ランキング(関東)」1位という東京・武蔵野市。まったく共通項がないような日米の二つの都市が、「外国人への投票権付与」をめぐり揺れています。
国際的な人の往来が盛んになり、定着する外国人が増える都市が世界各国で目立つようになっています。小室圭、真子夫妻のニューヨーク市マンハッタン移住も、そんな動きの一環でしょうが、そのような中で、ニューヨーク市では、「(人口880万人都市で)約80万人の外国人(Noncitizens)が市長を選ぶのか?」といったセンセーショナルな新聞の見出しが躍るほどの騒ぎで、今月9日の市議会での法案採決が注目の的です。
一方武蔵野市では、松下玲子市長が11月12日に、外国籍の住民も参加できる住民投票条例案を市議会に提案、賛否両論が沸騰。18歳以上の住民のうち、市内在住3カ月以上住んでいる人に投票権を認める内容で、外国籍住民も対象です。日本では、住民投票で外国籍居住者の投票権を認める自治体が40ほどあるようですが、在留期間に条件を付けずに日本人と同様に扱うのは珍しく、今月21日に条例案の採決を予定しており、その結果が注目されています。
ニューヨーク市のケースは、市長や市議会議員などの公選職選挙への外国人(Noncitizens)への参加を認める市条例案です。具体的には、市内に30日以上住み、永住権(グリーンカード)あるいは労働許可書を保持する外国人が対象で、これに該当するのは80万人と推定されています。現時点での有権者数は約560万人ですから、これだけ有権者が増えると、選挙結果に大きく影響します。
例えば11月2日に投開票のあった同市市長選ですが、大差で当選したのは民主党候補エリック・アダムズです。民主党の牙城とあって、この本選挙では民主党候補の楽勝が予想されたため、実質的な選択は10人以上が立候補した6月の同党予備選でした。元警察官でブルックリン区長のアダムズが7000票差でトップとなったのですが、仮に何十万人もの外国人有権者が投票に加わっていたら、別の結果になっていたかもしれません。
外国人への投票権付与を狙った市条例改正の提唱者は、ドミニカ共和国生まれの、マンハッタン・ワシントンハイツ選出イダニス・ロドリゲス市議会議員です。アメリカ独立運動のスローガンだった「代表なくして課税なし」(No taxation without representation)を引用して、外国人といえども、納税を欠かさず、善良な市民として、さまざまな行政サービスを受けているならば、当然市政について発言力を有するべきだとの主張です。
アメリカでは投票権については、国政レベルでの外国人は資格なしとの連邦法はあるものの、州憲法では州レベルの公職については、外国人に投票権はないと特記しているのはアリゾナとノースカロライナの両州のみです。他の48州では「すべての市民(citizens)」などの表記はあるものの、はっきりと「外国人(noncitizens)には投票権がない」といった表現ではありません。さらに州の下部にある地方自治体での選挙については、サンフランシスコでの教育委員会の委員選挙を含めて全米14の地方自治体が外国人に投票権を認めているなど、バラバラな対応です。
今月9日のニューヨーク市議会では、民主党議員が絶対多数を占めていることから、投票権付与が可決される見通しですが、合衆国憲法、そしてニューヨーク州憲法との整合性からの議論もあり、最終的には法廷での判断に持ち込まれる可能性が高いとみられています。
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(12/3/2021)