ワクチン接種の可能性を狙う「Vaccine Chaser」とは?

アメリカ101 第70回

先週土曜日(2月6日)に新型コロナウイルスの予防ワクチンの第一回接種を受けてきました。ロサンゼルス一帯ではワクチン接種をめぐる情報が氾濫、テレビや新聞ではドジャー球場での長蛇のクルマの行列や、POD(Point of Dispensary、注射拠点)で長時間座りこんで順番待ちをする人々の様子が映像や写真入りで伝えられるという混乱した状況からすると、「受けることができました」という安堵の表現にすべきでしょうか。カリフォルニア州での、医療従事者や長期介護施設収容の高齢者など、優先順位が高い人々が対象の接種開始からほぼ2カ月が経過しますが、「だれでも接種のプロセスを理解できて、簡単に、そして速やかに予約を済ませて接種できる」といった段階に至っておらず、州政府公衆衛生当局から個々のPODでの指示まで情報が錯綜、接種に辿り着いた人はラッキーという有様で、多くの住民に不平等感が強く、スムーズなワクチン接種がフル回転するにはまだ時間がかかりそうです。

 

筆者の場合は、メディケアを通じた大手HMO(Health Maintenance Organization、健康保険組合)のメンバーであるため、そのホームページでワクチン接種プロセス指示に従い日時を予約、指定PODに当日出向いて、そこで接種という極めて簡単なものでした。所属するHMOでは、手元のワクチン供給が限定的ということで、カリフォルニア州全体では現時点では一般の人については65歳以上が“有資格者”ですが、このHMOでは75歳以上が対象で、クルマで10分ほどのPODで1週間後の午後3時の予約がとれました。当日は定刻15分前に到着、長い列なしに流れ作業の要領で、注射を終え、15分間の「反応判定待機」を含めて1時間少々で終了、1カ月後の2回目の接種カードと10ページほどの説明書類を手にしてPODを後にしました。

 

しかし、ロサンゼルス郡当局が管理する不特定多数向けのワクチン接種予約は、主としてネットを通じた予約制で、年齢制限、医療従事者の職種などのスクリーン審査を経て、最終的に特定PODでの予約成立となるのですが、コンピューター操作を熟知しなかったり、コンピューターを保持せず、あるいはWifiへのアクセスもないといった低所得者層に人々にとっては、あまりにもハードルが高すぎるという声もあります。そして予約制であれば、長蛇の列はないはずですが、場所によっては正規の予約者の行列に加えて、予約のない人が「待機行列」(Standby Line)をつくり、根気よく待ち続ける光景も珍しくありません。これは、それぞれのPODでの「No Show」(欠席者)が通常10%、多いケースでは20%もあるためで、それを狙って待機する人々です。アメリカで使用しているファイザーおよびモデルナ新型コロナウイルス・ワクチンは低温冷凍で貯蔵・輸送し、使用に先立って解凍、6時間以内に使用せねばならず、保存はきかず、破棄するしかないというデリケートなもののため、その日のうちに使用することで、待機していた人々が接種対象となるため行列をつくっているわけです。さらに配送システムの不備で、必要以上の数量が一カ所のPODに入荷するケースもあり、待機者への“大盤振舞い”もあるようです。

 

ワクチン接種絡みで「Vaccine Chaser」という新語が生まれています。現在は一般人については64歳以下はワクチン対象外ですが、上記のような待機ラインに加わり、運よく接種を受けられる場合もあるため、可能性の高いPODを狙う「ワクチン追跡者」です。その典型的な例は、ロサンゼルス郡内で貧困世帯が多く、ウイルス感染率や死亡率が高いサウスセントラルで基幹医療機関として位置付けられているケドレン・コミュニティ―・ヘルス・センターで、より裕福なウエストサイドといった域外から高級車で乗り付け、持参したパソコンやスマートフォーンを操作したり、友人とだべり時間を過ごす若者の姿が目立ち、テレビ・新聞報道でひんしゅくをかっていました。

 


著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


 

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