ロサンゼルスにお住まいの方にはピント来ないかもしれませんが、日本では富士山の初冠雪が話題になっている。そうなると、まもなく冬の到来。この季節私は、雪深い温泉宿に思いを馳せる。深々と降る雪、そして満天の星を見ながら露天風呂に入るのは冬の最高の醍醐味ではないか。
そんな訳で、「温泉ソムリエ」の資格を持つ私が超お勧めの秘湯を2軒紹介します。
先ずは栃木県那須の山間にポツンとある1軒宿、北温泉旅館。
佇まいがなんともいい。昭和の哀愁を漂わせた小説に出てくるような建物が気分を盛り上げてくれる。切ないのだ。勿論温泉は最高、白く濁った熱い湯が冷え切った身体を芯まで温めてくれる。どんなに寒い夜でもポカポカになってしまう。朝・夜共に食事は部屋で出来るので、こんなご時世、気を遣わなくて良いのがありがたい。豪華とは言えないが山菜料理に舌鼓を打つ。阿部寛主演の映画「テルマエロマエ」のロケ地「上戸彩の実家の温泉宿」の設定にもなった。海外でも知る人ぞ知る、静寂な隠れ家旅館なのだ。一人で行くもよし家族で過ごすにもお勧めしたい。
2件目は福島県二岐温泉大丸あすなろ荘。
実はこの温泉にはほろ苦い思い出がある。今から30年前、今ほど温泉ブームではなかった頃、温泉マニアの学生時代の仲間から「テレビもなくて、露天風呂はランプの灯だけで入るので雪明かりと交差して何とも幻想的な宿がある。」そんなファンタジーな話を聞いたら行かずにはいられない。
早速仲間と車で向かったのだが、山深い宿に近づくと3メートル先も見えない猛吹雪となり、準備不足でチェーンも付けていなかった私達に恐怖が待っていた。なんと宿の近くの狭い渓谷でハンドル操作を誤ってそのまま谷へズルズルと落下してしまったのだ!幸い雪がクッションになって大惨事にはならなかったが、旅館の人に来てもらい3時間後にようやく雪上車に救出された。(寒かった!死ぬかと思った!)
その後凍えた身体で入浴したあすなろ荘の源泉かけ流し温泉の素晴らしかったこと。生き返ったとはまさにこのこと。遅い夕食で温かな土瓶蒸しを出された時には泣けました。あれから30年、宿はあの頃のままだろうか。毎年思いを馳せるのだがまだ行けてない。
話は変わりますが、旅館の皆さんに聞くと、予約の時「Wi-Fiありますか?」と秘湯の宿でも聞かれるらしい。無いと予約しないお客さんも!
そうなんだ・・・。私思うのですが、人里離れた温泉旅館は非日常なのだから、Wi-Fiもテレビも電気も使わず、ランプと雪明かりだけで一夜を過ごす楽しみ方もあるのでは。最高に贅沢な気分になれるのに!行ってみませんかランプの宿に。
■テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。