【サンフランシスコ17日】カリフォルニア州のニューサム知事は16日、複数の人工知能(AI)関連法案に署名した。法案は、俳優のデジタル肖像権に対する保護を強化し、政治広告における深刻なフェイク宣伝の拡散に対抗するもので、急速に台頭するテクノロジーに規制を設ける重要な第一歩になる。
これら新しい法案の一つは、今年11月の大統領選挙に影響する可能性がある法案「AB 2839」。すでにネット上では、政治家の支持や候補者の虚偽映像を使った動画が拡散しており、ニューサム知事は同法案成立の急務を語っていた。
法案「AB 2839」は、パロディや風刺を除き、候補者の評判や選挙結果に対する国民の信頼を傷つける可能性のある、操作されたコンテンツを抑制することを目的としている。同法案では、候補者、選挙管理委員会、選挙関係者は、深刻なフェイク広告を取り下げるよう裁判所命令を求めることができる。また、欺瞞的なものを配布または転載した者を損害賠償で訴えることも可能にする。
もう一つの新たな法案「AB 2655」は、テクノロジー・プラットフォームに対し、偽コンテンツを特定、削除、表示するための手続きを義務付ける内容。これもまた、一定の要件を満たすパロディ、風刺、ニュースアウトレットを除外する。「AB 2655」は、政治広告を作成する委員会に対し、その広告がAIを使用して作成されたものであるか、または大幅に改変されたものであるかを開示することを義務付ける。
現在、大統領選挙の候補であるカマラ・ハリス副大統領とトランプ前大統領のディープフェイク広告がネット上で広く拡散されており、誤報や偽情報への懸念が高まっている。一部のソーシャルメディア企業は、こうしたコンテンツが自社の基準に違反している場合、削除しているが、コンテンツのモデレーターが急速な共有やアップロードに追いつくのは難しいのが現状。
最近、深刻なフェイク広告の犠牲となったのが人気歌手のテイラー・スウィフトさんだった。トランプ氏はソーシャルメディア・プラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」で、スウィフトさんがトランプ氏を支持していないにもかかわらず、支持したとほのめかす投稿をシェアした。スウィフトさんはその後、このトランプ氏をめぐる誤った情報の拡散を深刻視し、インスタグラムでハリス氏支持を正式に表明した。
ニューサム知事が今回署名した法案は、昨年のハリウッド・ストライキで提起された懸念にも対処するもの。実演家組合「SAG-AFTRA」と全米脚本家組合はこのストで、人工知能技術の進歩によって仕事が奪われることを懸念する俳優や脚本家の保護を求めて闘った。
また、知事が署名したその他2つの法案は、パフォーマーにデジタル上の肖像に対する保護を与えるもの。ひとつは、死亡した人物のデジタル・レプリカを、その遺族の許可なく作成・配布することを禁止し、違反者に罰則を科すという内容。
もうひとつは、ある俳優のデジタル・レプリカが使用された場合、その俳優が直接その作品を演じることができた場合、あるいは契約にデジタル・レプリカがどのように使用されるかについての合理的で具体的な説明が含まれていない場合、その契約は強制力を持たないとする内容。契約に関する規則は来年1月から施行される。
カリフォルニア州議会では現在、約50のAI関連法案が審議されており、今回成立したものはその中のほんの一部。