VOL.11
3台のヴィンテージ・フォルクスワーゲンが佇む
枕木を使ったセルフビルドのガレージと
ハーフビルドで仕上げたログスタイル・ガレージ
ポスト&ビーム構造のログハウスは1階がガレージ、2階がゲストハウスになっている。このガレージをハーフビルドで完成させたのは、写真の土江さんだ。
木独特の温もりのある表情は、時代や生産国を問わず、豊かな時代を過ごしてきたクルマがひっそりと佇む空間作りにふさわしい。ゆえにヴィンテージカーは木製ガレージとの相性がなによりもいい。しかも、木材は機能面でもガレージに最適だ。調湿性や断熱性が高いため、湿気を嫌うヴィンテージカーにとっては意匠面だけでなく、機能面でも頼もしい素材なのだ。そんな木製ガレージをセルフ&ハーフビルドで完成させた、ヴィンテージ・フォルクスワーゲンのオーナーを訪ねて、山陰へと足を延ばした。
ガレージのオーナー:
Tomio & Yoko Tsuchie
「30年前に母屋を建てて以来、家や庭を夫婦の趣味で仕上げてきました。30年経って、やっと一通り完成したといえますが、それでも細かな改修を続けています。最新作は作業小屋の脇に作ったデッキスペース。コロナ禍で家にいることが多くなり、思う存分に作業ができるのが不幸中の幸い(笑)」。
ログハウスには、重ねた丸太を構造体とするものと梁や柱を構造体としたものなどがあるそうだ。島根県雲南市に住まう土江さんご夫妻の住まいは、母屋には前者のハンドカット・ログハウスを、さらに母屋に隣接する形で後者のポスト&ビーム構造のログハウスが建築されている。驚くのはそのどちらもが、主要な構造体は業者に依頼したものの、屋根や壁、床などはすべて施主がひとりで施工した“ハーフビルド”で完成されているという点だ。
さらに現在では枕木で“セルフビルド”したガレージや木工作業用の小屋、実家の敷地から移設した昔ながらの蔵や、庭道具を収納しているガーデンシェッドなど、複数の小屋やガレージが1000坪を超える敷地内に点在している。これらの建物は30年前に母屋を建築した後に、12〜13年の期間を経て建築されたものだというが、日々細かな改修や改築が加えられており、まだまだ最終形ではないそうだ。そんないくつかある建物の中でも、ひと際目を惹くのが2棟のガレージである。
ポスト&ビーム構造のログハウスは、1階が広々としたガレージになっており、内部に車両2台、ウッドデッキ下に1台の計3台を格納する。しかも、外階段を伝って2階へあがると薪ストーブが設置されたリビングにフルサイズのキッチンやベッドルームまで備えたゲストルームになっているのだ。
じつはこの建物はご夫婦がカフェをオープンしようと試みて建築したもの。趣味のことに時間を取られるため開業はしていないが、家族の帰省の際や友人たちの滞在スペースとして利用されている。
土江邸に佇むもうひとつのガレージも、内外装共に見所の多い魅力的な建物だ。2016年の春から秋に かけて、土江さん自身がセルフビルドで完成させたというこのガレージは、4方向の壁に橋脚用の枕木を積み重ねて 作ったもの。1本あたり100kgもあるという枕木を、下段は手作業で、上段は重機を使って丁寧に組み上げている。枕木同士は13mmの鉄筋でしっかりと繋いでいるが、さらに小屋組には無垢の立派な梁を2本渡してオーバースペックともいえる頑強な躯体を完成。床面は全体に枕木を敷きつめており、壁と同様に凸凹とした陰影を生み出している。いずれにしても、とてもセルフビルドで 作った建物だとは思えない、完成度の 高いガレージである。
ログハウスと同様の構造で建築されたこのガレージには、普段は奥様の愛車である1964年式フォルクスワーゲン・タイプ3を格納。壁面には趣味のロードバイクやエントリーしたイベントで受賞した各種のトロフィー、フォルクスワーゲンのメモラビリアなどもディスプレイする など、ご夫婦共有のスペースとして利用している。朝日の差し込むガレージ奥のスペースには、好きな書籍や雑誌を収納する書棚やデスク、チェアも置かれており、休日は淹れたてのコーヒーを味わいながら読書を楽しむことも多いそうだ。
外壁全体は白を基調としたマリンテイスト。さらに不揃いな枕木の表情と、数々のアンティーク雑貨が織りなす魅力的な空間は、まさに施主である土江さんのセンスが光るスペースといえるだろう。これだけの建物をひとりで建築したという建築工程をはじめ、ヴィンテージやアンティークが自然と馴染む空間作りなど、ガレージの建築を計画している人には是非とも参考にしてもらいたい素晴らしいスペースである。
PHOTO & TEXT_Kazutoshi Akimoto 秋元一利
株式会社CLASSIXが発行する“カリフォルニア生活”を提案するマガジン。
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