昭和演歌は消えて行くのか

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テリー伊藤
演出家。1949年、東京都出身。数々のヒット番組やCMなどを手掛け、現在はテレビやラジオの出演、執筆業などマルチに活躍中。

Instagram: @terry_itoh

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このコラムでも阿久悠さんの話は何度かしたがまた伝えたくなった。二人だけの席でしみじみとこんな話を。「テリーさん、もう東京には演歌の似合う街が無くなって来たね。お台場に行っても六本木ヒルズに行ってみても、華やか過ぎて。もう東京は演歌が作り難くなっているよ。寅さんが過ごした柴又帝釈天近辺もすっかり様変わりしている。どの町も高層ビルに建て替えられて。」

そう言えば私がよく行く横浜レンガ倉庫街は25年前は立ち入り禁止で柵があった。当時の横浜の不良たちがバイクを乗り付け、柵を乗り越えて、夜遅くまで騒いで警察との追いかけっこも日常茶飯事。あの舘ひろし、柴田兵平、中村トオルの『危ない刑事』の撮影地もいつもここ赤レンガ倉庫。まさに昭和の不良のデビューステージだった。それが今やチョコレートケーキとパンケーキの匂いがする。女子学生が好きなエリアになってしまった。もはや不良たちの居られる空間は全く無い。逃げるように山下公園で細々とロックンロールを踊るリーゼント集団を時折見かけるくらいだ。

将来日本から今まで感じた演歌の街角は消えてゆくのか。連絡船、赤ちょうちん、路地裏、手紙、汽車、故郷、雪、安アパート、寒い部屋、セーターを編んで待つ女…。最近の演歌にこんな詩は見当たらない。あの赤レンガ倉庫も今やお土産屋さんになってしまった。では演歌は終わってしまったのか。違います。演歌の「景色」は変わっても演歌の「感情」「心」は消えていないはず。 昔は「あなたを待って波止場に立つ」、今なら「LINEを送ったのに返事が無い」になる。昔は「夜汽車に乗って故郷を離れる」、今なら「新幹線で2時間半、でも故郷には帰っていない」。昔は「赤ちょうちんで一人酒」、今なら「コンビニでチューハイ買ってタワマンの部屋で一人」こんな感じに変わって行くのか。これからは「演歌が似合う街」から「演歌が似合う人」になって行くのでは。

渋谷のスクランブル交差点、何千人いても孤独を感じる人はいる。タワーマンションの30階で夜景を見ながら別れた恋人を想っている人。70才過ぎて愛する人を亡くしスマホの中に残った写真を見ている人。20才なのに恋愛せずAIと話しているほうが気楽な若者もいる。演歌は無くなるのではなく演歌が背負って来た哀愁の概念が変わるだけなのでは。そんな訳で、今度私が教えている東京国際大学の学生達に「君たちが考えるネオ演歌の詩」を考えてもらうことにする。さてどんなZ世代演歌が出来て来るのか。楽しみになってきた。

 

 

(10/1/2026)

 

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