筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信007
この冬は「ベタな展開」がウリの
ホールマーク映画を見て過ごそう
アメリカではサンクスギビングが終わるとホリデー気分が盛り上がります。クリスマスソング、イルミネーション、ショッピング、家族や友人とのパーティーなどなど。ですが、個人的にもう一つ欠かせない「ホリデー文化」があります。「ホールマーク映画」です。
これはグリーティングカードで有名なホールマーク社が制作するクリスマス映画シリーズで、今や冬の風物詩となっています。
アメリカで定番のクリスマス映画といえば、「三十四丁目の奇蹟」、「素晴らしき哉、人生!」など過去の名作や、「スヌーピーのメリークリスマス」など家族向けのもの、「ホーム・アローン」や「エルフ」などのコメディー、「ラブ・アクチュアリー」のような恋愛もの、はたまた「ダイ・ハード」など一見、ホリデーぽくない作品など多岐に及びます。
これらの映画と違って、ホールマーク映画は個々の作品の知名度は全くありません。基本的に劇場公開はされず、「テレビ映画」として作られていて、ホールマークチャンネルで放送されます。特にクリスマスシーズンには毎週、新作が公開されます。
どんな映画かと端的にいえば、超ベタな恋愛映画です。どの作品も似たり寄ったりのストーリーで、流れはこんな感じです。
1.主人公は都会で働くキャリアウーマン。
2.クリスマス休暇に田舎の実家に帰省。
3.幼なじみのイケメンと再会して、なんやかんやで恋に落ちる。
4.最後はクリスマスツリーの下でキスして、みんなハッピーエンド。
どうですか、この直球ぶり。「水戸黄門」並みに、サプライズなど一切なし。AIが書いたような脚本と演技力微妙な俳優陣で、制作費を抑えているのがひしひしと伝わってきます。でもこれがいい。
子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで安心して観られるので、家族で一緒に楽しめる。現実世界のあり得ない夢物語なので、疲れている方の現実逃避にもピッタリです。仕事や家事の合間に、難しいことなんて考えずに見られます。
しかも、これらの映画には、(一部の)アメリカ人にとっての「理想のクリスマス」が詰まっています。小さな田舎町の雪景色や、家族で囲む暖炉、手作りのクッキー。観ているだけで懐かしくてほっこりします。(ちなみに白人のイケメン男女が「メリークリスマス」を連呼する恋愛物語なので、近年のディズニーが気を払っているような多様性とは無縁です。)
おそらくターゲット層は、30代〜50代くらいの女性です。それなのに、私もアメリカに来てから、12月に一人の時間ができると観てしまうようになりました。まさに「guilty pleasure」(罪悪感や恥ずかしさを感じる密かな喜び)。こっそり楽しむ趣味です。
私は時々、日本の過去の恋愛ドラマを無性に観たくなるのですが、その感覚に似ています。あり得なさすぎる展開と若い役者の棒読み台詞にツッコミを入れながらも最後まで観てしまう、あの感覚です。妻にバカにされながらも、東京の和気あいあいとした様子を感じながら、若かりし頃を思い出しています。
ロサンゼルスに住む日本人の皆さんも、ぜひホットチョコレートでも片手に、ホールマーク映画を試してみてください。アメリカの「クリスマス観」を知るにはちょうどいい教材ですし、英語の勉強にもなります。そして、何よりホリデー気分を高めてくれます。「なんだこのベタな展開!」と笑いながら、のんびりと現実逃避できるはずです。
(12/4/2024)