v
f
v
アメリカ101 第122回
y
今年11月8日(火)の中間選挙と同日が投票日のロサンゼルス市長選挙が本格化しています。先週末が立候補の意向を正式に届け出る期限でしたが、その去就が注目されていた「最後の大物候補」である不動産実業家リック・カルーソが届け出を済ませた結果、“泡沫候補”を含めて実に合計27人が出馬を表明するという“大混戦”です。今後立候補資格審査を経て3月に立候補者が正式に確定します。その後6月7日の予備選挙を経て、得票数が多い上位2人の候補が本選挙に駒を進めることになりますが、現時点ではカルーソ(63)と、連邦議会下院議員当選6回というベテラン政治家で、黒人女性政治家カレン・バス(68)の二人による決戦の可能性が高いとみられています。
ホームレスと犯罪といった、ロサンゼルスが抱える最大課題が争点となる見通しですが、「誰が市長になっても大して変わらない」という無関心層も多く、前回エリック・ガルセッティ現市長が再選を果たした2017年の市長選では、「無風選挙」とあって投票率はわずか20%にとどまりました。しかし今回は、2期8年という市長任期制限に該当するガルセッティが駐インド大使に転出、現職不在での選挙です。しかも「やり手の仕事師」というビジネスマンとして知られ、「ロサンゼルスのパワーブローカー」として知られるイタリア系白人カルーソに対して、サウスセントラル(現サウスロサンゼルス)地域でのソーシャルワーカーとして草の根運動にコミットしてきた黒人女性バスという対照的な候補者の一騎打ちとなれば、注目度も上がるものとみられています。
ロサンゼルスの市長選挙は、まず出馬を予定する候補者が「意思表明手続き」をしたあと、それぞれ候補について出馬資格審査が実施され、3月に立候補者が確定する手順なのですが、その最初の段階で27人が“出馬”しました。カルーソ、バスのほか、いずれも現職市議会議員のジョー・ブスカイーノ(元LAPD=ロサンゼルス市警警察官)、ケビン・デ・リオン(元州議会上院議長)、そして元州議会下院議員で、現ロサンゼルス市法務官マイク・ファウラーといったカリフォルニア州政界では知られた人物も名乗りを上げています。以上5人が“真面目で本気な”候補者で、いずれも当選の可能性がゼロではないのですが、これまでのところ、メディアで注目されているのがカルーソとバスというわけです。
カルーソは、ハイクラスのショッピングセンター「ザ・グローブ」を立ち上げて一躍有名となった不動産事業家です。USC(南カリフォルニア大学)を経てペッパーダイン大学法科大学院でJD(法務博士)を取得、不動産事業で大成功を収めた「億万長者」です。ロサンゼルスのパワーブローカーを呼ばれるのは、市公安員会委員長や市水道・電力局(LADWP)委員会委員、USC理事長といった公職を通じて、LAPD本部長人事などで影響力を発揮したからです。実業家出身の市長としては1990年代のリチャード・リオダンが知られていますが、「職業政治家」への不信感が高まる中、実務家としての手腕がセールスポイントです。
一方のバスはソーシャルワーカーとして信頼を集めて政界に身を投じました。州議会下院議員時代には、黒人女性としてはアメリカでは初めてという州議会下院議長を経験、2010年に連邦下院議員選挙に初挑戦した際には、得票率85%という記録的な支持で当選、黒人議員団議長に就任するなど、ワシントン政界でも存在感を示してきました。 もちろん「選挙は水物」、カルーソとバスが予備選挙を勝ち進むかは確言できませんが、今回のロサンゼルス市長選挙運動はこの二人を軸として展開する見通しで、このコラムでも、今後折に触れて取り上げていきたいと思います。
f
f
f
著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)
通称:セイブン
1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。
(2/15/2021)