筆者・志村 朋哉
南カリフォルニアを拠点に活動する日米バイリンガルジャーナリスト。オレンジ・カウンティ・レジスターなど、米地方紙に10年間勤務し、政治・経済からスポーツまで幅広く取材。大谷翔平のメジャー移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者を務めた。現在はフリーとして、日本メディアへの寄稿やテレビ出演を行い、深い分析とわかりやすい解説でアメリカの実情を日本に伝える。
通信002
注目は大統領選だけじゃない!
世界に影響を与えるカリフォルニアの下院選
前回は、11月5日に投開票が行われる大統領選挙で、カリフォルニアの有権者は自分の一票の重みを感じづらいという話をしました。大統領選は、民主党と共和党が拮抗するいくつかの激戦州でのわずかな票差によって決まるからです。
しかし、今回の選挙で決まるのは大統領だけではありません。有権者は、連邦議会、州、郡、市など、様々な代表者を選びます。
今回、特に注目すべきは連邦下院議員の選挙です。国の法律を作る連邦議会は、上院と下院に分かれています。下院は2年ごとに選挙が行われ、全国の選挙区から435人が選出されます。各州から二人ずつしか選ばれず、任期も6年と長い上院に比べて、下院には各地域の世論がリアルタイムで反映されます。
今の下院は、共和党がわずかに過半数を占めていますが、民主党が4議席を増やすだけでひっくり返ります。ロサンゼルス・タイムズによると、現在は共和党が現職だけれど、どちらが勝ってもおかしくない激戦の下院選挙区が全米で15あります。そのうち5つがカリフォルニアの選挙区です。議会の協力がなければ、大統領も思うように政策を実現できませんから、全米のみならず世界情勢にも影響を与える重要な選挙だと言えるでしょう。南カリフォルニアの有権者は、その結果を左右するカギを握っているのです。
OCやLAの激戦区
例えば、ガーデングローブやサイプレスなどオレンジ郡北部を中心に広がる45区では、共和党現職のミシェル・スティール議員と民主党のデレク・トラン氏が大接戦を繰り広げています。スティール氏は、韓国系女性として全米で初めて当選した連邦議員の一人です。トラン氏もベトナム難民の家庭出身で、二人ともアジア系住民の多い選挙区を反映しています。
ロサンゼルス郡北部のサンタクラリータやランカスターなどに広がる27区も、全米から注目を集めています。20年から現職のマイク・ガルシア議員(共和党)に、宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックのCEOを務めたジョージ・ホワイトサイズ氏(民主党)が挑んでいます。
リバーサイド郡の41区は、共和党のベテラン、ケン・カルバート議員と民主党のウィル・ロリンズ氏による再戦となります。以前は保守的で共和党の強い選挙区でしたが、再区画によってLGBTQ+の有権者が多いパームスプリングスなどが加わり、民主党が力を伸ばしています。
これらの激戦区では、20年の大統領選で民主党のジョー・バイデン氏が共和党のドナルド・トランプ氏を上回りました。しかし、生活費の高騰や治安悪化に嫌気がさした人々の支持を得て、22年の下院選挙では共和党が勝っています。
大統領の監視役
下院で提出された法案は、上院でも承認されて、大統領が署名すれば国の法律となります。特に、米政府がどのようにお金を使うか(税金や予算)についての法案は下院から始まるので、どの政党が下院で多くの議席を持っているかによって、アメリカの経済政策が変わってきます。
加えて、下院には大統領を監視する役割があります。調査のため、証人を呼んだり資料を提出させたりする権限を持っています。大統領がルールを破った疑いがある場合は、大統領を辞めさせる「弾劾」手続きを始めることもできます。例えば、トランプ元大統領は、民主党が過半数の下院に2度も弾劾訴追されました。
大統領選ばかりが目立ちますが、他の選挙も世界情勢や私たちの日常生活に大きく影響してきます。5日夜の選挙速報などでも、南カリフォルニアの下院選の結果は大きく取り上げられるはずなので、ぜひ注目してみてください。
(10/23/2024)