「シュワちゃん」以来の後任知事立候補者数 加州知事リコール選挙、9月14日実施

アメリカ101 第91回

昨年11月はアメリカでは大統領選挙に加えて、すべての連邦下院議員と同上院議員の3分の1の改選を中心に、全土でさまざまな公選ポストをめぐり各種の選挙や住民投票が行われる4年に一度の総選挙の年でした。そして、来年11月の中間選挙までは大きな選挙は予定されていませんでしたが、カリフォルニア州では、20191月に就任以来、すでに5回目の知事リコール(解職)請求運動に直面していたギャビン・ニューサム州知事(民主党)について、リコール投票実施に必要な有権者の支持数が法定基準を上回ったことで、今年914日のリコール投票実施の日程が決まり、季節外れの「政治の季節」が到来することになりました。 

 ニューサム知事のリコール請求運動が就任して2年足らずで5回目というのは、カリフォルニア州で「万年野党」となっている共和党が、同州での民主党寡占体制に打撃を与える手段として、州憲法で保障された「敷居の低いリコール運動」を効果的に利用する戦略を採用しているためです。今回のリコール運動を取り上げた当コラム「ニューサム州知事、『夜の三つ星レストラン』でイメージダウン」(第69回、202125日号)で触れたように、カリフォルニア州では、2011年の知事リコール投票で現職のグレイ・デービス知事が解任となり、後任に「シュワちゃん」ことアーノルド・シュワルツェネッガー(共和党)が就任した時期を経て、それ以降は民主党が知事職を始めとして公選ポストである州務、財務、司法などの行政長官のすべての要職を占めています。さらには、立法機関である州議会上下両院でも、民主党議員が3分の2以上の議席を占めるという絶対多数を維持、共和党は州政治についてはまったく無力状態となっています。 

 共和党がカリフォルニア州の民主党寡占政治体制打破の活路として注目したのが、公選職リコール請求制度です。アメリカでは直接民主主義の手段としてのリコール制度が18州で採用されています。また下部の地方自治体でも独自の制度がありますが、カリフォルニア州の場合は州レベルでは、すべての公選職がリコールの対象となっています。解職請求の理由はどのようなものでもOKで、ニューサム知事については、就任直後からリコールの動きがあり、今回は①不法移民政策②州規模医療皆保険③死刑廃止新型コロナウイルス対策ホームレス対策高率の税金、などでの失政がリコール理由とされています。 

 リコール請求成立には、前回の知事選挙での総投票数の12%以上(145万人)の有権者署名を集めるのが条件で、最終的には170万に達したのですが、無効署名を差し引いても有効署名が基準に達したとしてシャーリー・ウエッバー州務長官がリコール投票実施を認定。これを受けてイレーニ・コーナラキス副知事は71日、①リコール是非投票②新知事選挙投票の二つの投票から成る選挙を914日(火)に実施する旨を正式発表しました。 

 これにより有権者はまず「リコールにイエスかノー」の設問に投票、同時に、「リコールが成立、現知事が解職となった場合に選出する新知事」候補への投票という2段階の投票を行う段取りです。カリフォルニア州での初の知事解職となった2003年のリコール投票では、「イエス」票が過半数を超えて現職のグレイ・デービス知事が失職、120人を超えるという前代未聞の多数の後任知事立候補者から、あの「シュワちゃん」ことアーノルド・シュワルツェネッガーが48・6%の最多票を集めて当選しました。リコールによる後任知事選びでは、立候補資格が緩いとあって、今回も、すでに50人以上が「立候補意思表示」を州政府当局に済ませており、914日の投票日まで、前回並みの「サーカスのような見世物」選挙となる見通しです。(以下次号に続く) 

 

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著者/ 佐藤成文(さとう しげふみ)

通称:セイブン

1940年東京出身。早稲田大学政治経済部政治学科卒。時事通信社入社、海外勤務と外信部勤務を繰り返す。サイゴン(現ホーチミン市)、カイロ、ベイルート、ワシントン、ニューヨーク、ロサンゼルス各支局長を歴任し、2000年定年退社。現在フリーランスのジャーナリストとしてロサンゼルス在住。


(7/6/2021)

 

 

 

 

 

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